絹について
大正時代の鮮やかな染料の着物。
私事で恐縮ですが、いそべは現在、日本刺繍にはまり、奮闘中です。もともと、人形の着物に使う半衿の「この場所に刺繍があればいいのに・・・」という思いからです。アンティークの半衿は現在、品薄で高価、また、真ん中が汚れていたり、もともと人間用を縫い縮めるので、柄が大きい・いい位置に出ないなどの苦労もありました。
日本刺繍は伝統的ゆえにとても難しく、大雑把な私にはできないかな〜と思っていたのですが、なにより絹糸(釜糸)の色や輝きに魅せられてしまいました。
もともと、私の祖母が糸(麻、綿、毛、絹)を扱う織の仕事をしていたため、糸には縁がありましたが、人形を始めて、絹のすが糸の髪を染めたり、着物を探して骨董市に出入りしているうち、絹マニアの端くれになってしまいました。
天然素材(麻、綿、毛、絹)は化繊とは違い、個体差があります。同じ染料でも厳密にはまったく同じ色にはならないそうです。私は元来、均一で工業的・大量生産品ではないもの・・・たとえばグラスアイにしても、”不良品”に見えなくもない規格外の色などを好んで収集する癖があるので、着物なども個性のあるものが好きなんだと思います。
絹ほどいろいろな表情を持った繊維もないのでは、と思います。例えば刺繍の糸ひとつとっても、「指でなでる」という艶出しの技法があります。触るのと触らないのでは全く違う質感になります。ヘンなたとえですが、犬や猫のブラッシングのようです(絹も動物性繊維ですから、おおまかには間違ってはないですよね)。人形の髪に使う絹すが糸も、つやのない状態から、よくブラッシングをすることで、艶をコントロールできます(絹は化繊に比べて艶がないとお思いの方も多いかと思いますが、そうではありません。単に手を入れるか入れないかの違いです)。
アンティークの着物をほどいていると、着物から長じゅばんに格下げになった着物など、つぎはぎだらけですが、それほど昔の人はものを大切にしたんだなあ、としみじみ思います。絹の着物など、本当は一部の人しかまとえなかったに違いありません。いま、私たちはその貴重な絹を容易に入手し、豊富に使えるのですから、いい時代であると思うと同時に、生かしてあげないと・・・とも思います。
刺繍半衿は、ただいま練習中・・・。桜が一番初心者向け
使うのは古布ですが、刺繍ひとつで小さなきれに命を吹き込めるのではないでしょうか。
幾何学模様が好きですが、きれいに揃えるのはなかなか難しいです。
帯に犬張子を刺繍しました。遠めで見れば、まあまあ、かな。
絹すが糸は、アトリエベベ通販でも以前から常用していましたが、実は深刻な問題があって、仕入れ元が安定しませんでした。その問題というのは、特に黒いすが糸の染色なのですが、伝統的には黒の染色は、真冬に染めて寒中で乾かすそうなのです。こういう伝統的なものは、ほとんど高齢化・後継者不足で、年々少なくなっているそうです。よって、どうしても高くなってしまったり、量が確保できなくなっていました。
幸い、ご縁がありまして、新しい仕入れ先を探すことが出来まして、カタログに試験的に入れることにしました(実は以前、期間限定で販売したことがあります)。しかも、カラーがたくさんあります。ただ、問題が1つあって、1つのかせ(よりかせ)が大きく、こちらで小分けする必要があるのですが、そのかせが機械巻きのため、複雑に糸が交差していて、1かせ解くのにほぼ半日、かかるのです・・・。でも、使うためには絶対どこかで解かないとならないので、しばらくはさばくのに時間を費やしそうです。ただ、カラーはものすごく綺麗ですし、第一、お安く譲ってもらっているので、ありがたく使わせていただこうかと思います。みなさまも、どうぞ使ってみて下さいね。
(カタログ「ヘアカセ」のページでお取り扱いを始めました。)
魅惑のカラー、刺繍糸
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆今月のギャラリー☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「はな」
55cm・球体三つ折れ
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