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人形情報紙
ベベ通信69
vol.69'05/8月 BYまりりん石原
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「ベベ通信」は、もともと通信販売商品に同封する為に発行している人形情報のフリーペーパーです.
これは、そこから抜粋したホームページバージョンです

 

自分だけの人形を作る

 

 

「自分だけの人形を作る」というのは、人形を作るものにとって、もっとも原始的で、中核ともいえる欲求かもしれません。
 私のように、まがりなりにも「人形作家」と名乗らせてもらい、定期的に展覧会を開催して人形を里子に出すことも「人形を作る」目的のウェイトを占めているとなると、「自分のために人形を作る」こともなかなか頻繁にはできません。現に、私は、「作ること」が楽しいので、完成品には意外に執着心がなく、ほとんどの作品を残さないタチなのですが、それでも人形を作り始めの頃は自分の欲しい人形を作っていましたし、数年に一度くらい(本当に数年に一度ですから、数的にはいくらもありません)は、作ってきました・・・なかにはそう思って作っても、「欲しい!」といわれて譲ってしまったこともありましたが・・・。

 そして、いままた私は自分のために人形を作る楽しみを、本当に数年ぶりに味わって、楽しんでいます(この「楽しみ」には、同時に「苦しみ」も味わうということでもありますが)。だれかに譲ることを目的をしない人形というのは、後のことを考えないので、計算をしないというか、冒険ができます。誰かに何かを言われることを受け付けないワガママさも含んでいるというか・・・。

 現在、私はあるミュージシャンたちをモデルにした人形を作り続けています。まあ、それが誰かというのにはほとんど意味がないと思うのであえて言いませんが(どうしても知りたければ「まりりんの日記」をご覧下さい。でも、期待するほど面白くないし、創りたくなるようなキャラでもないと思いますが・・・)、明確なモデルのある場合、いろいろな問題がでてくるのかもしれません。自分のために作っているのでだれかに売るつもりは全くないけど、ウェブで公開してもいいのかなあ(あまり公開したくもないですけど)、とか、他のファンに怒られないかなあ、とか。まあ、好きでやってんだからいいだろうくらいの気持ちですが。

 だれかをモデルにする場合、俳優でもミュージシャンとかの有名人でも、友人や家族などの身近な人でも、現実の人間と人形の間には、深い溝があるのです。作風にもよりますが、人形は人形の世界の住人です。たとえば、本人から型を取ってそっくりに作っても、そこに生命がないので、蝋人形か死体のように不気味になってしまいます。いくら綺麗でも、人体というのはそこそこ醜い部分があって、そのバランスが狂うと、まったくの別物になってしまいます。
そこで、アレンジが必要になってきます。もちろん、モデルによって人形にしやすい・しにくいの差は大きいです。一般的に見て、幼児〜少女はモデルにしやすいです。作者と肉親なら、なおさら似ます。また、意匠に特徴のある有名人(例えば、いつもその衣装で登場する人とか・・・時代劇の役とか、宝塚のスターとか、ビジュアル系のミュージシャンとか)は、コスプレしやすいので、いいですね。難しいのは「普通の人」です。

 でも私の場合を例にとると、モデルは、まあ、有名人ですが「会ったともない」し、「いい年したおじさん(白人の中年男性ならではのルックスと体型)」だし、「外見は普通。むしろ地味すぎる」し、もちろん「肉親でもない」。もう、最高に難しいですね。しかも、私の胡粉人形の作風は、どちらかといえば、少女に一番合う作風。・・・成人男性は、ただでさえ“かっこよく”作るのは至難の業なのに、カジュアルが基本の普通の・・・むしろ髪の毛なんかもかなり厳しい人をモデルにするなんて、かなり無謀です。以前に作ったことのあるマラーホフ(ロシア出身のバレエダンサー)のモデル人形などは、あまりにも本人が美形で人形のようなスタイルなので、さほど苦労せず楽しく作れましたが。

 でも、どうしても作りたい気持ちはあったので、あくまでもモデル、私の中ではそう思っていればいいということで、情熱に押し切られる形でつくりあげました。この「情熱」というものは、意外にくせものです。冷静さや技術と反比例するような。でも、人形を作ることがあたりまえの生活になり、製作が作業のように慣れすぎて、忘れていた大事なものでした。

・・・が、あくまで“参考程度にとどめ”て美化しすぎたか、似ていないのに加え、どうも気持ちが悪い。「誰、これ、別人・・・。」あれほどパーツにこだわったはずなのに。ちょっと若い時代を参考にしたので、若くて綺麗だけど似ても似ていない代物になってしまいました。いつものように胡粉をかけたため、肌がちょっとなまめかしすぎるし、そのせいで微妙なラインや目の大きさが狂ってしまった。いや、誰も知らない人が見たら、なんとも思わないでしょうけど・・・。
 とりあえず、“らしい”洋服を着せ(100%の真似は、なんだか嫌だったので)、飾ってもなんだかすっきりしない。う〜〜〜ん、と思っているうち、また粘土をこねていました。怒涛の2作品目、1作目はなかったことにしよう・・・うん。
 結局、2体目はもうちょっと似せようと努力し、洋服もそれっぽく作ってみました。例えば、俳優のジョニー・デップとかは、シザーハンズやジャック・スパロウ、チャーリーなどキャラ立ちしているものは多いしフィギュアもあって結構似ていたりするので作り安いんだと思います。でも、素っぽいデップは、たぶん難しい。素がどんな人かわからない。私の場合も、知っているのは基本的に彼らの作る作品(音楽や詩)や、せいぜいインタビューから想像されるものくらい。あとはあきらかに自分で勝手に想像したキャラ。ならば、思いっきりキャラ立ちさせちゃっても面白いかも(かなり迷惑ですが・・・)。

  

写真の写しようによっては、人っぽく見えますが。
だいたい、モデル本人があまり顔を露出しない人なので・・・。

 


気軽に「やってみて」とは言えませんが、たまには“自分のためにがむしゃらにやってみる”というのも面白いものです。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆今月のギャラリー☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「秋のサムライ(ヴァンパイア)」
ラドール、胡粉、絹すが糸、グラスアイ
アンティーク着物(小袖、袴)、エナメル(コート)、ブーツ
モヘア(プードル)、鎖



これもモデルドールです
各30cm

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