6月19日(金曜日)
げんなりした朝。自分の存在に何の特別さもないことを、嫌というほど再確認しながら、マンチェを出発する準備をする。
今日はロンドンに移動する。マンチェでは良いことがなかったなぁ…相性が悪いのかも。でも、マンチェの人が優しかったのは確か。ちょっとウロウロまごついていると、向こうから「どうしたの?」「トイレは下だよ」とか、話しかけてくる(ほとんどおじさんだが)。
チェックアウトして、徒歩で駅に向かい、マンチェ空港まで電車で、もと来た道を戻る。もう来ることはないかなぁ…。首都はともかく、地方都市は日本のようにはスムーズにはいかない。なかなか勝手がわからないことが多く、とにかく誰かに「こっちでいいの?」とか聞いてばかり。時間とか、ホント余裕を持って計画を立てた方がいいですね。
マンチェ空港に、ルーファス・ウェインライトの書いたバレエ「Prima Donna」公演のポスターが。7月上旬に上演予定。ルーファスといい、PSBといい、エルトン・ジョン(「Billy Eliot」ミュージカル版)といい、ゲイとバレエは切っても切れないコンテンツのようだ。
正午頃、ヒースロー空港到着。なんだか安心した。ロンドンは何度も来ているし、移動なんかでそんなにアワアワ・パニックになることもなかろう…スムーズに地下鉄ピカデリー・ラインに乗り、ホテルのあるラッセル・スクエア駅に。いつものホテル(立地が良くて、ほどほど安くて、ほどほど快適な)にチェックインした。いつもシングルで予約しても、たいがいシングル料金でダブルかツインを取ってもらえるのだけど、今回はシャワーのみの狭いシングル…。もう一度レセプションに行って、にっこり微笑んで、「もう少し広くて、バスタブのついた部屋に変えてもらえるかしら?(ツインルームとは言わないわよ、追加料金は払う気ないから)」と頼んだら、「?」な顔をされた。一応チェンジしてもらって部屋に行くと、バスタブ付きの少しは広い部屋だったけど、やっぱりシングル、ソファもなし。う〜ん、今夜、ホテルには内緒で、今日のライブ参加を誘った友人(と言ってもブログ友なので初めて会う在英日本人Tさん)を泊める予定だったのだ…(追加料金払ってもツインに変えてもらえば良かった)。まあ、カーペットに毛布敷いて寝たってかまわないんだけど。
部屋で着物に着替えて、ユンケル飲んで気合を入れる。今日は、スタンディングだ。つまりは基本、並んだ者勝ち。多少のキツイ状態にも耐える覚悟だ。Tさんからの電話を待つが、3時にはホテルを出たかったので、Tさんの携帯に電話した…が何故か通じず。待ち合わせ場所のラッセル・スクエア駅に行くと、Tさんから電話があり、目の前に電話するTさんみっけ。本当はTさんの荷物をホテルのワタシの部屋まで置きに行く予定だったのだけど、申し訳ないけど、とお願いして、そのままO2アリーナ(ノース・グリニッジなので、地下鉄で40〜50分かかる)に向かう。おかげで4時には並ぶことができた(Tさん改めてご協力ありがとう)。
すでにDドアには30人ほどの列。02アリーナは広いので、エントランスも6か所ある。同時にドア・オープンしても、前の方に行くのは難しいかも、と思った。でもたまたま係員の誘導に従ってゆるゆると入った列が、最初に会場に誘導されて、ラッキーなことにトップで会場に入ることができた。他のドアの入場者は?と思ったけど、広いアリーナ、目指す最前列のセキュリティー・バーがガラ空き!スキだらけ!係員は「走らないで〜〜」と言うけど、もちろんおほほ笑顔の小走り。目指すは舞台向かって右、ピコピコ神の真正面です!!ワタシ、バーにマジで飛びついていたかも!!
周りのファンたちと、この場所に居られる喜びを分かち合う。少なくともワタシの周り…かわいい女の子2人組、ファン歴20年のアラフォー女子、多分ゲイの男の子たち、など…はクリスの激ファンで占められている。まだ7時、ソールド・アウトのはずの会場の2階席以上は全然人が入っていないけど、前座Frunkmusikがパフォーマンスを終えた8時半には、満員の人、人、人。
前を見ている限り、ワタシはステージしか見えないけど、後ろを見ると気持ち悪いくらい、上まで人ですよ、ぎっしり。
ギャ〜〜〜〜始まった!
オープニング、「More than a dream (Magical Dub)」イントロでニール&クリス、それぞれ箱をかぶって登場。最初の曲は「Heart」。箱かぶったままのパフォーマンス。クリスは正面過ぎて、逆にDJブースとマックが邪魔で、あまりお姿が見られない。同じく箱を被ったダンサー兼バックシンガーのソフィー&ポリーが舞台の左端でオブジェのように佇んでいる。
曲終わりで箱を取り、みんなギャ〜!続いてニューシングル「Did you see me coming?」。次は、ファースト・ツアー以来のパフォーマンスとなる1986年の古い曲、「Love comes quickly」。気になったのは、ニールがサビでファルセットを使って歌わないこと…もしや、もうあの高音が出ないんじゃ…。ちょっとだけ心配になる。続く「Can you forgive her?」は新アルバムからの「Pandemonium」とのマッシュ・アップ。この2曲はもともとすごくよく似ていたから、違和感なし。静止する二人の周りを若者たちが踊りまくるのを上から見た映像がすごく楽しい。まさにPSBってそんな存在よね。
「Love Etc.」Britsでも流れていたPVの変形バージョンがスクリーンに投影。クリスの衣装は、肩にキューブ型のスポンジみたいのが入っていて、ロボ・クリスっぽい。うう、マジで近いよ!真正面だよ!続く「Integral/ Building a wall」のマッシュ。最初のニールとクリスの掛け合いの台詞は、多分録音で、クリスは喋っていないと思う(マイクはなかったように思う)。その代わり、ドラム・パーカッションを叩く。
キューブの壁が崩れ、セットチェンジ。女性ダンサー・シャルロットと男性ダンサー・ショーンがセット上に勢いよく登場。いつも後半の大盛り上がりかアンコールのことが多い「Go west」、早々の登場。スクリーンでは、PVでも表現されていたBテーマである東社会→西社会のイメージ(中国っぽい)のパフォーマンス(本当のAテーマはゲイの楽園神話だが、今回それは封印)。「Paninaro」のドラムン・ベースをクリスが叩く。Britsの時と同じアレンジ。
2人の衣装チェンジ(ニールはやや光る素材のジャケットに、クリスはDJブースで上だけミラー付きのキラキラ衣装にチェンジ…帽子はずっと、ロゴがキラキラしたAddidas。) 後光が差しまくり。
「Two divided by zero」と「Why don’t we live together?」は、これまで一度もライブ・パフォーマンスされたことがない、ファースト・アルバムの一番最初と最後に入っている、いわば地味な曲。後者の曲は、クリスの見せ場である“唐突・プラプラ・ダンス”!
♪Left to my own devices〜とワンフレーズ聴こえたけど、次の曲は「Always on my mind」。何故か「Closer to heaven」の一部がインサートされ、「Left to my own devices」。バック・メロディーのアレンジがこれまで聞いたことのないバージョンで、ニールもマイナー低音でのラップ。
ニールの衣装チェンジ、帽子とサングラスを外して、タキシード姿。これまた一度もパフォーマンスされたことがない「Always on my mind」のB面曲、「Do I have to?」。クリスの美しいピアノ・バージョンのアレンジ。ニールが、赤いドレスの双子ダンサー(まだ箱はかぶったまま!) の手を取って踊る。静かな曲は続く。次はKing’s Cross」。デレク・ジャーマンの撮った映像がバックに流れる。
ワタシがYESの中で一番泣けてしまう曲、「The Way It Used to Be」。男性ダンサー、ショーンのソロ・ダンスがけっこう迫力ある。ワタシの一番好きなサビ部分に、バックシンガーのシャルロッテの声が大きくかぶって、ニールの繊細な声が聴こえず、ちょっと残念。
その次は、PSBの結成当時に作られたすごく大事な曲で、これまでパフォーマンスされなかった壮大な曲「Jealousy」が、初披露。ダンサーのショーン&シャルロッテの見せ場の激しいダンスあり。
ニールがシンプルな黒ジャケットに、クリスが白いジップアップに着替え。クリス、サングラスが”ピコピコ戦隊クリスんジャー”みたいだし!
「Suburbia」盛り上がり最高潮、「All over the world」、「Se a vida e(That’s the way life is)」、「Discoteca/Domino
dancing」(マッシュ)と続く。(ごめんなさい、ワタシこの頃、アドレナリン大放出で記憶が飛んでいます。写真も撮らずに、踊ってました、多分。)
ニールの衣装チェンジ(マントと王冠)
「Viva la vida」。コールド・プレイのカヴァー。マントを翻しつつ、カリスマ性たっぷりに観客を魅了する。この曲はナポレオンの事を歌っているので、この王様衣装。アルバムYESにはナポレオンの息子をタイトルにした「King of Rome」が入っていて、この曲は歌わなかったけど、選曲にも関係性があるんだね。
*「Viva la vida」についての歌詞と解説はこちらのページに詳しいです。
ニールの衣装チェンジ(マントと王冠を取る)
「It’s a sin」フィナーレ、大盛り上がり、大合唱、もうめちゃくちゃ!!すごい紙吹雪!
アンコール:(2人とも黒い衣装にチェンジ。羽のついたキャムプな帽子を被って登場)
「Being boring」。ダンサーなし。ようやくニールがクリス側に近寄ってきてくれた。
ニールのMC(メンバー紹介)、アンコール2:
この写真、今回のワタシのベスト・ショットに決定。
「Mr. Chris Lowe!I’m Neil Tennant, We are the Pet Shop Boys!!」
ニコニコニール、クリスもごきげん。
「West End girls」(Extendedバージョン?) ダンサー、再び箱を被って登場、ニールとダンサーたちは最後に新聞を観客席に投げた…あとでいただき。ああ、これで終わりかーお名残り惜しい!!去り際、クリスは何かニールに話しかけていた。2人とも満足そうに笑っていたから、やり遂げた感じ。そりゃ、O2アリーナを満席にして、16,000人の大観衆からの喝さいを浴びるなんて、アーティスト冥利に尽きるでしょう!!
ワタシもかなり燃え尽きた。赤い着物に、頭には赤い花と蛍光イルミネーション飾り、キラキラ光るメッセージうちわを持った奇妙な日本人を、彼らはチラリとでも認識してくれただろうか。うん、たぶん、見てくれた、そう信じよう。
ところで、ショーは最初から最後まで、ヴィデオ・カメラで撮影されていた。多分DVDなんかの製品化のためではなく、PSBのプロダクション側の記録ではなかろうか。カメラは私たちオーディエンスと舞台の間の通路を右往左往して、ステージと、たまに観客席も映していた。ワタシもかなり…投げKISSなんかして…きっちり映ってきましたよ。後からニール&クリスはこの記録映像を見たかな?観客席の盛り上がりっぷりを見てほしい。少なくともどの会場でも、スタンディング最前列は、何時間も並んで待ってその場所をゲットした熱狂的なファンに決まっているから、その過剰な愛を少しでも受け取って欲しい。
ヘトヘトだけど、なんて気持ちのいい疲労感だろう。ワタシは、この2時間弱の夢に参加するためにお金を貯め、時間を作り、仕事を調整し、猫を留守番させて、ここまでやって来たのだ。こんなに充実した”達成感”は、他では感じることができないのだ、他の、仕事や遊びに申し訳ないけど。生きていることを実感できるし、まるでワタシがステージに立ってなにかを成し遂げたような気分すらする。その反面、夢の中にいて、現実でないような気もする。
アリーナは早々に追い出されたけど、外のスタバで水分と糖分を補給。しばしの放心状態と余韻を楽しんで、一応出待ちは不可能なことを確かめて、バスでホテルに戻る。ロンドンのバスは一晩中動いている路線も多いので、便利(ラッセル・スクエアのホテルを選んだのは、定宿であることに加え、O2アリーナにバスで1本で帰って来られるからでもあった…)。
ホテルに着いたのはすでに1時。ツインの部屋がもう空いていなかったので、Tさんはシングル・ルームを別に取り、それぞれの部屋へ。まだ興奮で踊りだしそうだったけど、完璧に体は疲れている。お風呂に入り、3時にはベッドに入る。前日のマンチェとは比べ物にならないくらい、幸せな気分だ。
なんて単純なんだろう、ワタシ。
凡人なのさ。
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ここからは、ホント余計な私的な考えだと思うから、どうでも良いと言えばそうなのだけど、強く感じたので、書いておこうと思います。
つくづく、音楽には壁がないし、音楽に国籍や思想やセクシャリティは関係ないといこと。
いまだに世界中では…とてつもなく寛容に思える欧米の街のどこかでさえ…、ヘイト・クライム(憎悪犯罪)が起きている。誰かを、生まれつきの何かしらのカテゴリーによって憎むという感覚が、私にはまったく理解できないので、その根の深さは測り知ることができないのだけど、この世のどこかに、PSBを”ゲイの演奏する/ゲイの聴く音楽”というだけで憎んでいる人たちが居るのなら、それはすごく悲しいことだと思う。
O2アリーナという、ロンドンで最大級のヴェニューの満員の観客たちを熱狂させ、踊らせ、共に歌い、最高にヒートさせられるグループが、”音楽”以外にカテゴライズされる必要はないと思う。
実際のところ、ゲイ・コミュニティは、自らの存在権利のためと居心地の快適さを求め、必然的に閉鎖的で、一般を受け入れない部分もあると思うので、ゲイ・ミュージックも、一般を敬遠し壁を作り(Building a wall)、ミニマムな世界に閉じこもる傾向にある。ゲイ・ミュージシャンによっては、「ゲイのファンのためにやっている」という人たちもいるだろうし、「ここからはノンケは入らないで」という見えない線引きがある場合も見受けられる。
ただ、PSBを見る限り(もちろん彼らは自分たちをゲイ・ミュージシャンとは決してカテゴライズしないが)、いったいどこが隔絶されたコアなゲイ・ワールドなのよ、って思う。そりゃベタな部分もあるけど、そのベタさは一般の子供からお年寄りまで理解できるポップなベタであり、ゲイ・アンダーグランドのベタではない。特に今回のツアーは極めてストレートな舞台演出で、むしろゲイのファンには物足りないのかも、って思わせるほどノンケだ。果たしてこのまま彼らはノンケっぽくゲイネスを感じさせない道を行くのか、たまには戻るのか…わからないけど、25周年のここに来て、(Brits功労賞をはじめとする)再びの脚光を浴びている今、またひとつ足元を固めて、カテゴリーなんて軽く吹っ飛ばすような、さらにその地位を確固たるものにするに違いない。彼らはすでに”ゲイ・ミュージシャンの王様たち“ではなく、”ミュージシャンの王様たち”です!
ただ、あくまで控え目にひとつ加えさせてもらうと、私はゲイ・ベタなのも十分にラヴリーと思います。
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