石原まりりんas Margaretの部屋/7月
ロンドン・センチメンタル・ジャーニー

6/27〜7/3、‘06

マーガレットのブログ日記




マーガレット・ゴーズ・ウエスト

 いま、こうして日本に戻ってきて、たった1週間の記憶をたどりつつ、それがなんだかもう1ヶ月ほど前の出来事のように思い出せないことを思うと、いかに深く狭い体験だったのかと、しみじみ想う。これまでこんなに何かに夢中になったことがあっただろうか。少なくとも、21世紀に入って初めての経験だろう。

 前日まで、確実にナーバス&センチメンタル。チケット未着が、私を“この旅は運命的である”という思いが間違いであるのではないかという疑念を持ち始めてしまい、ファン真理というのはかくも複雑なもの、自分の妄想だけでもう十分楽しんでいるからいいじゃないか、あまりに近づきすぎては現実という名の高い壁に自分の妄想世界を否定されてしまうのではないかという恐れも抱いていた。それゆえ、とてつもなく憂鬱な状態に陥ってしまった。

 待ち合わせの成田
港に一人で向かう…この作業はとても義務的だった。それを拒否できるほどの勇気はないし、もう、腹をくくるしかない。飛行機は大嫌い、こんな苦痛がなければもっと海外に行けるのだけど…。この、誰でも体験せざるを得ない苦痛ですら、私にとっては、喜びの瞬間のための苦行に過ぎないのだなあ、と大げさに考えてみる。
 ファンというものは、このようにマゾヒスティックなものなのだろうか。自分を追い詰め、いかに苦労して尽くすかということに快感を覚えてしまうのだから!

 ところで、私が今回乗ったヴァージン・アトランティックは映画のラインナップが素晴らしい。日本では秋に公開される「カポーティ」(今年のアカデミー賞でフィリップ・シーモア・ホフマンが主演男優賞)を見られたのはラッキーだった。ゲイであるカポーティのいやな面を描いている…。もともと英国はゲイっぽいところだけど、今回は本当にゲイに縁がある。アメリカのコメディTVドラマ「リトル・ブリテン」もゲイっぽさがベースになっているし、すっかりこれにははまってしまった(実は大いにPSBに関係あるので、これはまた別で書きます)。

ロンドン到着

 何度も来たはずのヒースロー
港。まだ夢の中にいる。ふわふわしていて実感がない。ホテルに着き、一息つくが、ゴージャスな部屋にもかかわらず、バスタブがない。換えてもらうように言ったがきがないので、1日だけガマン。ただ次の日の午後、部屋は代えてもらったものの、荷持がなかなか来ない!ライブ前でピリピリ・キリキリしているのに、早く持って来てよ!また気分が落ち込み切る。結局、3度もフロントに請求して(そのたびに2,3分待って、と言われる)、1時間後に届く。ああ、これが“イギリス時間”なんだろうけど。
 広い部屋、広いバスルーム、ベッド、エアコン、冷蔵庫、TV、湯沸かし器、ティーセット、セーフティボックス、アイロン、ドライヤー…。私がよく泊まる安宿よりはかなり条件が(そしてもちろん宿泊代も)いい。乙女チック行脚には、それなりの心安らぐ場所が必要なのだ。
 ホテルの部屋の前は、ラッセル・スクエアという公園のような広場がある。もう20年近く前、ここでニール、クリス、アシスタント(クリスの恋人)の3人で歩いていたところ、酔っ払いに絡まれて警察沙汰になったことがあるらしい。その体験が『A man could get arrested』の曲の元ネタという。ロンドンにはこんな風に、あちこちにエピソードが転がっているのだ。



ラッセル・スクエアはいわゆるクルージング・スポット(ゲイのナンパ場)のひとつといわれているようだけど、周りの環境といい、そんな怪しい感じは全くない。まあ、夜の
会は表情を変えるものだけど。ちなみに、最寄り駅のラッセル・スクエア駅の出口正面には24時間スーパーマーケット(ロンドンでは稀少)があり、とても便利。サンドウィッチや飲み物もあるので、1人旅でもよさそう。ここでビールやお酒も購入したけど、レジで「IDカード」提示を求められる。パスポートのコピーを見せた。さすがに18歳未満には見えないだろう。言われたのは一度だけだったけど。

 いまだに引きずっている憂鬱な気分は、パブのビールで洗い流せば、すぐに消えると思っていた。心待ちにしていたパブ、ビール、パブめし。不安感と緊張でごはんが喉に通らない(これは本当に、旅の終わりまで続いた)。ビールさえあれば、何も口にしなくても耐えられるのだ。


 


ホテル近く、ブルームズベリーのビストロ・パブ「Perseverance」は2日目のランチ。左がラム・ロースト、右がマッカレル・フィッシュケーキ(塩サバのポテトコロッケ風)。どちらも絶品だった。夜はめちゃくちゃ混んでいて入れなかったけど、ワインも揃っていた。

 2日目の昼間は、ほとんどアンティークマーケット(エンジェル)で終わってしまった。ホテルの部屋の交換のことや、夜のライブ(そう、チケットが来ていないのは今日のライブなのだ)のことが気になり、大胆な行動ができない。たまに、自分がものすごく慎重で消極的なのか、はたまたとんでもなく大胆なのかわからなくなる。失敗を恐れるあまりに多重人格という保険をかけているのだろう。



カムデン・パッセージの黒猫。

 
たかがスーパーマーケットの棚の野菜だけど、色彩感覚が日本にはない鮮やかさ。

 

 


マーガレット・ゴーズ・トゥ・タワー・オブ・ロンドン:1

I WANNA GO TO THE SODOM AND GOMORRAH SHOW!

 ホテルで休憩後、着替えをしてライブに向かう。今日という長い1日の第2部が始まる。ちなみに、6月末だけどロンドンは湿気がなくて過ごしやすい。直射日光さえ受けなければ、心地よい風がとてもさわやかで、「暑い…苦しい」という感覚はない。日本の地獄のような湿気暑さで耐えている日本人は、本当に忍耐強いと思う。
 会場到着。まだかなり早い。ライブ会場はロンドン塔の外壕に設置されていて、外回りから見ようと思えば見れる。写真右側の屋根のある部分がスーパーシートA席で、その右奥がステージ。ステージはここからじゃほとんど見えないけど、音は聞こえるので、その気になれば無料ライブが楽しめてしまうだろう。実際、観客は大勢いた。



 いったいどこでチケット再発行ぶんを受け取ればいいかウロウロしていたが、結局ロンドン塔のチケット売り場がボックス・オフィスになっていて、いとも簡単にチケットを受け取れた。そしたら、スーパーシートAは入り口が、たくさんの人が並んでいるところとは別で、本来のロンドン塔の入り口と同じだった。荷持検査もなく、切符は見せただけで、もぎりされることすらなかったのにはビックリ。ヨーマンウィーダー(ビーフィーター:ロンドン塔の案内係の、中世風赤い衣装の人)にうやうやしく迎えられ、私たちはスーパーシート専用の屋根つきの控え室で待つことになった。天気もさわやかだし雨も降っていなかったので屋根つきでもさほど関係なかったけど、一応のVIP待遇な訳ね…。フードや飲み物も無料だった(ただ、胸が苦しくていっぱいで、ビールしか飲めなかった)。



 屋根つきルームより、外の方が圧倒的に、人気。ヨーロッパの人はみんな、本当に太陽が好きだ。


 


 午後7時半、会場に移動。私の席は前から10番目だけど左寄り。絶対に右寄りの方が良かった(クリスは右側が定位置だし、ニールだって真ん中か、クリスの横に来て歌う事だってある)。
 午後8時、前座バンド登場。ノルウェイのLorraineというバンド(さっき調べました)。ちょっとグラムっぽくて、悪くない。ボーカルが美形。ものすごく音がおなかに、胸に、響く…。30分ほどで、終了。



 21時、いよいよライブが始まる…うう、ドキドキ!冷静じゃいられないよ〜!手が震えて、写真が撮れません!お客さんは年齢層高め、そしてやっぱり男性が多い。黄色い歓声ではなく、どよめくような低音の歓声!



 ぎゃ〜!それぞれ、本人とダンサーとシンガーが同じ扮装をしているので、ニールとクリスがそれぞれ3人いるみたいに見える(クリスの扮装をしたダンサーなんて女性だし!)。写真はこれがせいいっぱい。オープニングは『Psyc
hological』。
 私の席からはクリスがすごく遠い!なんだか目が震えて、舞台が霞んで見える。クリアによく見えない…。それが、余計に目の前にある現実感を、夢に変えてしまっている。



 アコースティックな『Home & Dry』演奏中。ああ、もう見るほうに専念したいので、写真はやめておきます。多分、ファンサイトにもっとよく映っているやつがそのうちアップされますので。
 ライブは最初こそ大人しかったんですが、途中からスタンディング。みんな思い思いに踊り、歌い、エキサイト。私も全てを歌いまくり(周りが見えていないので、これは私とニールのデュエットなのだ!)、持参したうちわを振り続ける。このうちわは周りのファンからもすごく評判がよく、ほめられたり写真を撮られたり…やっぱりうちわはエキゾチックなアイテムなのね。作って行ってよかった。ただ、ライブ終了後はモールが全て取れてしまった…。明日、修理して再使用できるかな〜。↓その、うちわ(使用前)。「Q」誌のグラビアをコピーしたもの。



 22時30分、まつり終了。夢が終わった、半分。しばし呆然として、自分が何をしていいかわからずにいる。実はこの時、うちに戻ってきてしまったプレゼントを、もしかしてプレゼント受付があるかと思って持参していたので、スタッフに聞きまくったけど、そういうのはやっていないらしい…。残念。半べそかきながら退散。

 

 ステージの上、カウチ、そしてカバーされちゃったけどクリスのキーボード。さっきまで彼はここにいた。下には『Sodom and Gomorra
h show』でかぶっていたヘルメットが。ああ、去りがたし。



 私が座っていたスーパーシート。タワー・オブ・ロンドン・ミュージック・フェスティバルのロゴ入り。

 去りがたい気持ちはたくさんあったが、今夜はあまりにも衝撃が強く、とぼとぼ帰ることに。もう今日はこれ以上は何もできない。
 膨大なスタッフと壮大なセットと完璧なステージで、彼らが「大勢で作り上げた音楽ビジネス商品」であることをよりはっきりと感じた。さっきまで一体化していたはずなのに、ライブが終わると、急にすごい距離を感じる。当然かもしれない、私の作り上げた妄想だけで楽しんでいた時は終わったのだから。みな、どうなのだろう。この思いの不毛っぷり、このもどかしさに、いったいどのように折り合いを付けられるというのだろう。もちろん、そんなことはわかっている。理論ではわかっているのに、感情として受け入れられないだけなのだけど。よくわからない興奮状態は、頭の中で“パニック状態、真っ白”と判断されるらしい。ああ、単純に、シンプルに、あるがままを楽しめたらどんなにラクだったろう。

 帰りの地下鉄の構内で、『T
he Rocky Horror Show』再演のポスターを見た(私はこの舞台の90年の再演を見るためにロンドンに来ている。日程さえ合えば見たかったが…)。この舞台のテーマは「Don’t dream it , be there.」(夢見るな、夢になれ)であるが、夢になるのはそうたやすいことじゃない。私はさっきまで夢になっていたけど、時間が来れば夢は覚めてしまうもんだ。そして現実に戻り、再び短い夢を見るために、辛く苦しい日々をやり過ごすのが、人生なのだ。

 明日は、もうちょっと冷静にライブを見たい…。でも、きっと今より切なくなるかもしれない。

THE SHOW MUST GO ON!


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