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♪♪妄想乙女マーガレット通信★vol.56♪♪
別冊「まりりんの日記」/ペットさん(ペット・ショップ・ボーイズ)偏愛フリーペーパー
第56号・2007年9月発行★発行人:まりりん石原、執筆乙女:マーガレット(題字:ニール王子)

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ニール・テナントVSブレット・アンダーソン▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 サマーソニック07にて、時間差で同じSONICステージに立ったPSBとブレット・アンダーソン。何かの縁かも。1997年3月、雑誌に掲載されたニールとブレットの対談をどうぞ。

実は互いにファンだった二人が飲み食いしながら親密に語り合った、冴え渡る。
ポップ・ミュージック論、そっとしておきたかった過去、そして隠された性生活。
飲酒による赤面にもかかわらずポーズを決めようとするブレット・ダンディズムに
容赦なく襲いかかるニール・テナント、元ジャーナリスト下世話魂

 

 もちろん二人は意気投合した。
対談の後、熱心な見物人たちが「へえ、意外に仲よさそうだったなあ」と言っているのも聞こえた。
それにしても、28歳のスウェードのリーダーと
42歳のペット・ショップ・ボーイズの組合せだなんて正反対の人間の典型を見ているようなものだ。
歳若い方は生きているとは思えないくらい血の気がない。
彼の肢体は卓上ランプの腕のようにピンと緊張している---細さは恐らくランプ以上だ。
対する年長のお相手のほうは軽く日焼けをしていて装いもカジュアルですっかりくつろいでいる。
彼を見ていると「あか抜けている」という言葉がふと浮かぶ。
対談場所となった豪華で気取ったレストランで、
彼は自信たっぷりにワインをオーダーする。アンダーソンのほうは最初はクールに自分を抑えていたが、おしゃべり好きなテナントの温和な物腰に影響されてすぐに打ち解け始める。双方とも去年の秋(マ注:1996年)新しいアルバムをリリースした。ペット・ショップ・ボーイズにとって6枚目のプロパーなアルバムになる「バイリンガル」はドラマチックなラテンビートがあふれ、これ見よがしのケバケバしさのあるアルバムだが、実はその中に死や歴史や自信喪失について厳粛に黙想した曲の数々が隠されている。
スウェードのサード・アルバム「カミング・アップ」は、
つかの間の恋人たちが化粧品や体液そして安物のドラッグを分かち合う、
10代の若者の荒廃した生活を描いている。
しかしそのサウンドは猛烈にロックしているのである。
この二人はずっと以前から互いの作品を高く評価していた。

●お二人の出会いのきっかけは?


B(ブレット・アンダーソン)「デレク・ジャーマン(3年前エイズで死去した前衛映画監督)を通して出会ったんだ。デレクが主催したクラプハム・グランドのスウェードのショウにニールが来てくれたんだよ」


N(ニール・テナント)「僕が思うにはね、ブレット、君たちも僕らもある意味では同じ系統のバンドなんだよ。つまりスウェードも単なるオーセンティックなロック・バンドではないという意味でね。ロック・バンドではあるんだけど、ロックンロールを演っているというわけではないんだ」


B「確かに僕は”ロックンロール・バンド”や“アート・バンド”といった枠には収まらない、もっと広い領域にまたがるバンドになりたいと常に思っていたからね。PSBも外見的にはポップ・バンドだけど、その背後にはもっと多くのものが隠されているよね。ニールはソングライターとして尊敬を集めているけど、それってポップ・ミュージシャンの多くが手に入れられないものなんだ」


N「バンドを始めた時、そしてスマッシュ・ヒッツ誌で働いていた頃、世の中には2種類のグループがあると、いつも思っていたんだ。つまり“どこにでもいるような普通の好青年”タイプと、野心的で気取っていて、もったいぶったような連中がね。僕が10代の頃好きだったのは圧倒的に後者のタイプ、つまりロキシー・ミュージックやデヴィッド・ボウイであり、決してステイタス・クオやスレイドじゃなかった。だから例のニュー・ラッド人気で“普通の奴ら”段階に入っている現在のイギリスのシーンは僕には退屈なんだ」


B「そう、イギリスではいつの時代でもバンドはどれか一つのカテゴリーに収まらなきゃダメなんだよね。だけどデヴィッド・ボウイもそうだけど、優れたバンドって必ずそれ以上のものを包含しているんだよ」


N「学生の頃、人と同じことをやるのが嫌いなやつというのが必ずいただろ。そうしてそういう連中が最後にはバンドを組んでいたんだ。僕が学生だった70年代初頭は誰もがプログレッシヴ・ロックが好きだったけど、僕がデヴィッド・ボウイとTレックスのファンで、あの二人も当然ながら軽蔑に値するようなティーンエージャーだったわけでね。こないだマルコム・マクラーレン(マ注;ファッションデザイナーでセックス・ピストルズの仕掛け人)も言っていたけど、パンクを創造したのは、プログレでは飽き足らなくなったボウイやブライアン・フェリーのファンだったんだよ」


●ブレットの場合、こういった70年代初期の音楽には後から入っていったんですよね。


B「うん、その当時グリッター風メイクをしてそこらじゅうをほっつき歩いていたってわけじゃないよ。でも僕があの頃の音楽にのめり込んだのは、音楽的にまさに不毛だった80年代という時代に育ったからこそなんだ。僕はスパンダー・バレエなんて聴きたくなかった。それで姉貴のレコード・コレクション、つまりビートルズやボウイなんかに夢中になって痛んだよ。そしてスミスとペット・ショップ・ボーイズが登場して始めて同時代の音楽に興味を持ったんだ」


N「だけど90年代というのは本当に特異な時代だね。何しろ親も子も同じ音楽が好きなんだから僕にはそれがちょっと気にかかるんだけどね。とにかく悪質なロック・ミュージックがはびこり過ぎている。80年代に『僕たちは戦争に勝った、ついにロック・ミュージックを絶滅させたんだ』と思ったんだけどなあ…。退屈なマッチョ・ロックってやつをね。あの“マッドチェスター”はダンスとロックのクロスオーヴァーだったから気に入っていたんだけど、今のシーンはもう・・・。別にオアシスがそうだって言いたいわけじゃないけど、仰々しくて愚直なロックがあまりにも多いよ。逆に今は再びダンス・ミュージックが真のアンダー・グラウンドになってきていると思う」


B「僕にとってダンス・ミュージックというのは理論上この世に存在するだけっていうか、最前線の音楽だって頭ではわかっているんだけど、どうしても好きになれないんだよ。音楽というのは先ず楽曲が基盤になってなきゃダメだと僕は思っているから」


N「かつてはダンス・ミュージックも楽曲指向だったんだよ。ところが80年代の終わり以来、多くのダンス・ミュージックがドラッグを基盤にするようになってしまったんだ。ドラッグでハイになるのはそりゃあ最高の気分には違いないだろうけど、僕にはそれは退屈でしかないね。僕も君と同じで曲そのものがいいかどうかが大切だと思っているんだ」
B「あなたが初めて参加したバンドって何でしたっけ?ダストかな?」


N「うっ・・・(苦笑)。いやあ、1970年代の音楽シーンってのはそりゃあひどいもんだった。レッド・ツェッペリンが好きでもない限りはね。僕たちは例えばジ・イングレディブル・ストリング・バンドのような、どんなジャンルにもまったく当てはまらない、ただ変わっているだけのバンドが好きだったんだ。ダストでは2回ギグをやったきりだったよ。ところで君の初めてのグループは?」


B「うっうっ・・・(苦笑)。・・・実はペイント・イン・ブラックっていうゴス・バンドだったんだけど、まったくどうしようもないバンドでね。あ、でも僕はゴスじゃなかったんだよ。あと、ジェフっていうハウスマーティンズみたいなグループにもいたことあるよ」


N「・・・(激しく動揺)ジェ、ジェフ?」


B「あ、でも、本格的なバンドはこのスウェードだけなんだ。---結成したのは88年だった。NME(マ注;UKのメジャーな音楽誌)にギタリストの募集広告も出したんだよ。影響を受けたアーチストはスミス、ボウイ、PSB、ロイド・コールってね」


N「当時はジャスティーン(マ注;ブレットの元カノ)もメンバーだったんだよね」


B「僕とオット・オスマン、ジャスティーンそれにドラム・マシーンという構成だったんだ。まあでもバンドを始めた頃って自分でも何やってんだかよくわかっていないっていうかね」
N「ジャスティーンの話をするのはやっぱり決まりが悪いかい?」


B「いや全然。今でも彼女はいい友達だしね。しょっちゅう会っているよ」


N「でもデーモン(マ注;ブラーのデーモン・アルバラーン。ジャスティーンはブレットとの破局後、彼と付き合っていた)は?」


B「その人物については何の見解もないね。実在の人物っていうだけで。(そして意味ありげに)気をつけないと僕もイレイジャーの話を始めちゃうよ」


N「ところがイレイジャーのほうは、僕たちのことがすごく好きなんだと。ある人物から教えられてね。罪の意識をすごく感じたよ。だけど面白いね。---ジャスティーンが君とデーモンの人生の両方にかかわっているというのは。まるでテレビのミニ・シリーズの筋書きのようじゃないか」


B「ああ、確かに・・・。(タイミングよく通りかかったウェイターを呼び止めて、上手く話題を変えるブレット。前菜抜きでメインを注文する)」


N「昔のレコードはやっぱりいろいろ聴いているのかい?」


B「ええ。新しいものも聴くようにしているんだけどあまりにも数が多すぎて。そういえばこのあいだもスコット・ウォルカーのアルバムを何枚か買ったんだ。---スウェードっていうと必ずスコット・ウォルカーが引き合いに出されるんだけど、僕自信は1曲も聴いたことがなかったもので。でも本当に素晴らしい、リッチなサウンドだね。あなたはどんな音楽を普段聴いているの?」


N「ありとあらゆるジャンルを聴いているよ。『そういやティム・ハーディンは聴いたことなかったな』と思うとすぐにCDを買いに行く、という具合にね。昔の音楽は常に聴いている。例えば子供の頃はジミ・ヘンドリクスは一度も聴かなかったけど、今は聴くようになったしね。クラシック音楽も結構聴いているんだ。クラシックはすごく範囲の広い音楽だろ---そこからいろんな発見をしていくのは本当に面白いよ」


B「ビートルズのレコードも見事に時間を超越しているね」


N「そう「『ステキなナツメロ』なんていうんじゃなくて今聴いてもとにかく新鮮なんだ。ところで“トラッシュ”で僕が気に入っているのは、あの曲が僕の言うところのスケートリンク・レコードだという点なんだ。子供の頃ノース・シールズにある屋内スケート場によく行ったんだけど、スケート場の中ってエコーがかかったみたいにすごく音が響くだろ?リヴァーブが思い切り効いていて、リアルさがあまりない音っていうかね。ポップ・ミュージックが鳴っている理想的な環境さ。ところで君はどこの育ちなんだい?」


B「ヘイワーズ・ヒース」


N「・・・悪いけど、それってどこなの?」


B「知らないほうがいいよ。汚らしくて不愉快なところさ。ブライトンにつながっている鉄道の線路があるけど、その路線の列車に乗って窓から外を眺めると、僕の親父がタクシーを運転しているのが見えるはずだよ」


N「ロンドンのすぐ近くで育つのってステキだろうねえ。僕はニューカッスルの育ちだけど、ロンドンなんてニューヨークと同じくらい遠い場所に思えたものだよ」


B「子供の頃、駅の前を通るたびにどの列車もロンドンに向かうんだって考えると、『ああ、僕もあの列車の乗客だったらなあ』と願わずに入られなかったよ」


N「13歳のとき、父がロンドンに日帰りで出張しなければならなくてね。僕も朝の4時に起きてニューカッスルから車で一緒にロンドンに連れて行ってもらって、その日は一日中、一人で町を散策させてもらったんだ。1967年のことだよ。」


B「僕が生まれた年だ」


N「ピカデリーサーカスにはすごい数のヒッピーがたむろしていたな。あと、信じられなかったのが、シャフツベリーアベニューにある劇場の数!劇場が文字通りずらりと軒を並べているんだからね!見事だったよ」


B「あなたはニューカッスル近郊の生まれということだけど、僕にはロンドンっ子のような印象があるんだ。ロンドンに引っ越してきたときはふちなし帽(労働階級の象徴)なんかも全部持ってきたりして、いかにも北部の労働階級の出ってノリだったの?」


N「僕は元々全くそういう感じじゃなかったんだ。学校でもアクセントのせいで“めかした奴”って言われていたしね。兄弟はみんな北イングランド訛りがすごく強かったのに、僕一人どういうわけか、遺伝子の事故か何かで、訛りがないんだよ。だけどロンドンというのはすごくロマンティックな街だね---夜のロンドンの街に逃げ込む、そんなことを今でもいつも取り憑かれたみたいに考えているんだ」


B「街の中にいったん消えてしまって自分のなりたい人間になれるのがロンドンだからね。ところでクリスのことを聞かせてもらいたいんだけど、15年も同じ人間と仕事をするのってどんな気分なのかな」


N「クリスとはすごくウマが合うんだよ」


B「でも彼って謎めいた人でしょう」


N「私生活ではクリスのほうが僕よりずっとお喋りだし外交的なんだよ。その正反対になっているけどね。私的な生活はあくまで私的にしておきたいから、公の場で謎めいた振る舞いをしているんだよ」


B「それはもっともなことだね。誰にでもそれが許されてしかるべきだと思う」


N「でもまあ、おもしろい関係ではあるよ。ものを作るプロセスの中で一番厄介なのが、他人がどう思っているかを意識してしまうってことでね。僕にとって、一緒にいても自意識過剰にならない相手はクリスしかいないんだ。クリスの場合も僕だけだと思う。だからこそうまくやってきたんだよ。それに音楽の聴き方が彼と僕じゃ違うんだ。クリスは『あのレコードのベースの音は最高だな』っていうような言い方をするけど僕は絶対そういう言い方はしないんだ。僕だと『すごくいいメロディだね』とか『すごくいいサウンドだ』っていう言い方になるわけ。僕のほうが曲の全体を眺めているんだね」


B「そういう二元性って大事だと思う。最高にいいレコードを作るには、テクニシャンとロマンティストの両方が必要なんだ」


N「ロマンティシズムはレコード作りの中で非常に重要な要素だと僕も思うよ。君たちの音楽もロマンティックだね。だけどクリスだってベースのサウンドに関してはロマンティックになれるんだよ」


●サード・アルバム『カミング・アップ』を出した時のブレットの心境は?


B「いろんなクソみたいな状況から完全に抜け出して本当にうれしく思っているんだ。みんなこのバンドを巡って(バーナード・バトラー脱退の件で)途方もない憶測を流しまくってくれたからね。こっちはただ座って連中がでまかせを言うに任せるだけだったよ。でも最後には自分たちが誇りに思えるレコードを作ってやった。スウェードの歴史の中で初めて、他人の意見が気にならないんだよ。僕はこのアルバムを、前作よりも人間味のあるものにしたかったんだ。前作はかなり冷たい感じがしたからね。あと今回は10曲しか入っていないって言うのも気に入っている」


N「最近のアルバムはどれも曲が多すぎるね。CD1枚に最高72分録音できるからだよ、そんなんじゃ1曲1曲じっくり味わうなんて絶対にできない。だから僕たちがアルバムを作るときは単なる局の寄せ集めじゃなく、ひとつの作品として体系化するように努力しているんだ」


●PSBのニューアルバムはとてもインターナショナルでエキゾチックな雰囲気がありますね


N「クリスと一緒にニューヨークのサウンド・ファクトリーっていうバーに行ったことがあるんだけど、そこで信じられないような大音響でサンバ゙・ドラムを叩いている連中がいてね。あと、腰に布をつけただけの男たちが葉っぱを敷き詰めた上で踊っていたり。で、そういうのを全部僕たちのショウに取り入れたんだ。そして数ヵ月後、グラスゴーのシェブーンっていうバンドのショウを見たんだけど、彼女たちなんて公営住宅デサンバ・ドラムを手作りしているんだよ。それは全く素晴らしい音色だった。沿い打ったものが今回のアルバムですべて一体になったんだ。とにかくサンバのあのエネルギーとノイズが好きなんだ。それに僕たち、英国のポップ・ミュージックがあまりにもキンクス、キンクスって偏狭になりすぎていると感じていたものでね。60年代のああいう英国観、ドラッグでハイになって
市郊外の生活をくさすって言うあのやり方って、60年代当時でさえ陳腐に思えたのに、それがリヴァイヴァルしているなんてね。だから英国ニューカッスル出身の僕がブラジルで人気者になるなんて、最高に素晴らしいことのように思えるんだ。ほんと、胸が躍るよ。実際、僕たちはボゴタのスタジアムでもプレイしたんだよ。ニューカッスル出身の僕とブラックプール出身のクリスが、コロンビアのボゴタでね」


●そうやってPSBの音楽は全地球的な趣というものを獲得したわけですが、一方のスウェードの曲に登場するキャラクターはいまだに窮屈な場所に閉じ込められている感じがします。つまり彼らの逃避手段はどれもメンタルなもので、物理的、地理的にどこかに逃げるということがないですよね。新曲のひとつにも『ピクニック・バイ・ザ・モーターウェイ』という、いかにもスウェードらしいタイトルの曲がありますし。


N「そのタイトル、最高だね!」


B「子供の頃、叔母と叔父がよくゆで卵とサンドイッチを作ってくるまで出掛けて、クローマーに向かう高速道路の待避車線に車を止めてピクニックしてたのを覚えているんだ。そのせいか、玉突き衝突事故をはた目に誰かが紅茶をすするっていう奇妙な光景をいつも頭の中でイメージしてしまうんだよ」


N「そういうのって誰もがイメージすることだよ。僕も必ずそういうのに興味をそそられるんだ。」


B「とてもイギリス的なイメージだよね」


N「君ってそういうおぞましい、身動きの取れないイギリス人の生活っていうのに魅力を感じているんじゃないのかい?」


B「そうなんだ。それは僕にもわかっているんだけど、もうどうにもならないんだよ。前回のアルバムで何とかインターナショナルなものを作ろうと必死に努力したけど、結局自分の生まれた場所からは逃げられないんだ。そういう曲の書き方が僕には一番あっているしね。あなたはどう?」


N「僕は自分あるいは自分の周りの人間のことを曲にすることが多いね。僕たちの局はいつも皮肉っぽいって言われるんだけど、実際には僕の人生のいろんな場面を曲にしているだけなんだよ。ただ、決まりに悪さを少しでも軽くするために外観を変えて登場させることが多いから、皮肉に見えてしまうんだろうな」


B「僕だったらまずある一人の人間のことを念頭において書き始めて、底から普遍的なテーマを導き出そうとするだろうな」


N「僕もそうだ。だから、セクシャリティを取り上げた曲を書くと『どちらの性にも受け取れる書き方をしないで,はっきり“HE”と言えばいいじゃないか』ってみんな言うんだけど、僕としては誰にでも当てはまる曲だと思ってもらいたいんだ。でもアメリカではこれが大論争になってね。----つまりそういう書き方をするのは実は言い逃れでしかないんじゃないか、って。」


B「腹立たしいのは、ラヴソングの中で“HE”を使うと、みんなすぐ男に向けたラヴソングだと思ってしまうってことなんだ。でも僕が“HE”をよく使うのは、その曲が他人の目から見た僕のことを歌っているからなんだよ。なのにこれは男へのラヴソング、これは女に向けたラヴソングって、みんな頭の仕組みがすごく二次元的なんだ」


N「最初君たちが登場したとき、例のバイセクシュアル問題が騒ぎになったわけだけど、あの伝説的発言については今はどう感じているんだい?」


B「ふう。発言自体は全く後悔していないんだよ。悔しいのは、そのせいでクソみたいな目にあったってことだけでね」


N「僕はあれは最高だと思ったんだけどね。何て言ったんだっけ?---『自分はホモセクシャル体験のないバイセクシュアル』だっけ?」


B「いや、『自分はパンクしたことのない自転車だ』(笑)って言ったんだ」


N「とにかく最高だと思ったよ。態度の決定を保留にするという考え方がね。近頃じゃ自分の性的思考に関する態度を保留にするなんてことは許されないからね。苛立たしいことだよ。僕はゲイだってことを公表したわけだけど、それまでは一度も言ったことがなかったんだ。“ゲイのニール・テナント”にはなりたくなかったからね。そこに閉じ込められたような気分になるのが嫌だったんだ。それにみんなセクシャリティの重要性を過大評価しすぎているよ。何世紀か後の人間は、20世紀を暴力とセックスの世紀として、人をセクシャリティで評価した時代だとして振り返るんだろうな」


B「”僕たちの仲間かそうでないか”で評価するんだよね。だけど僕は誰の仲間にもなりたくないな」


●過去にやったことで何か後悔していることはありますか?それともやはり、われわれ人間はむしろやってないことについて後悔するものなんでしょうか。


N「ジョン・ベッチマン(英国の桂冠詩人)が死ぬ前に『なにか後悔していることは?』と訊かれて『もっとセックスをしておけばよかった』って答えたそうなんだ。子供の頃その話を聞いて『そうかあ、絶対に忘れないでおこう』と思ったよ。だって鋭いところをついているじゃないか。人間忙しすぎて、セックスを十分やらないまま人生を送ってしまうことが有り得るんだよ」


B「誰もがそう感じているんじゃないかな」


N「セックスってのは本当にややこしい代物でね---とてつもなく退屈なのに、最後には『手間隙かけるだけの値打ちがあるものだ』って言わざるを得なくなるんだからね!だけど有名人になるとセックスが滑稽なものになってこないかい?つまり“スウェードのブレット”と寝るのが目的の人間と遭遇したことは?」


B「あるよ。だからいろいろ頭の中で考えてしまって、しまいには『何でこんなことを?』って言いたくなるんだ」


N「僕もそんなに頻繁ではないとは言うものの、相手が”ペット・ショップ・ボーイズのニール・テナント“と寝ようとしていると気づいたことは何度かあるよ。『なんて品のない奴だ。誰が寝てやるものか』と思ったね」


B「セックスが本当に安っぽいものになってしまうんだよ
ねことの最中まさにイクっていうその時に『ちょっと待てよ、ひょっとして』なんて思ってしまうんだから・・・。」

ウエイター「失礼します。デザートはいかがなさいますか?」

 

 


 

 


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