Margaretの部屋/20167
ロイヤルオペラハウス&ヘルシンキ


マーガレットのブログ日記




Inner Sanctumの地獄のレビュー。うう、闇。

帰国後すぐ(ライブ1週間後に書いてブログにアップしたものに、ちょっと冷静になったライブ2週間後のいま、Youtubeでもう一度見て、加筆修正しています。ライブ後すぐは、私いつも、大恋愛が終わったかのような騒ぎになり、やや冷静さを欠いています。だから、鑑賞中→鑑賞後しばらく→再考、と、けっこう評価が変わってしまいます。すいません、不安定で。)

初めに申し上げておきます!私はPSBのライブを見るだけで、とてつもなく幸せです!もうそれ以上何もありません。会場でライブを見て踊って疲れ果ててその場で死にたいくらい幸せです。でも、でも、ずっとファンでライブを見てきたモノの視点からこそ言えることがあるかもしれない…あえてほんの少しだけ感じた疑問点や違和感をも合わせてレビューさせて下さい!★★★★★をつけたうえでの批評です!





 英国の伝統ある会場であるロイヤル・オペラ・ハウス(以下ROH)で、希有なポップスのコンサートを開催できるということはとても素晴らしい栄誉だし、ニールとクリスにとってもとても誇らしいイベントが決まったということに違いない。日本でいえば、歌舞伎座でライブやるみたいなもの?エレクトロ・ポップ・デュオでありながら、かねてからクラシックやバレエへの傾倒と相性の良さを実践してきた二人、ファンならずとも、この4日間のライブは期待が大きかった。もちろん一番興奮しているのは多分PSBご本人たちに違いないし。

 オペラの殿堂をディスコに変えてしまう暴挙…いや、前代未聞の栄光?(ROHの歴史でポップスのライブ開催の記述が発見できす、前代未聞なのかどうかは不明なのだけど)、ライブ開催とともに発表された新アルバム「SUPER」もアゲアゲ系、ああ、もう楽しみすぎる!事前予告なし、発表と同時のチケット販売にもかかわらず、4日間のライブは即完売。キャパがいつものO2などの会場に比べて10分の一程度とはいえ、期待が膨らみすぎるほど膨らんだ。

 待ちに待った7カ月、そして当日。誰もが発狂するくらい沸いた会場。

セット・リスト(公式サイトによる)

Inner sanctum/West End girls (10-inch version)

The Pop Kids

In the night/Burn/Love is a bourgeois construct

New York City boy

Se a vida é

Twenty-something

Love comes quickly

Love etc/The dictator decides/Inside a dream

Winner (HappySad version)

Home and dry (ambient version)/The Enigma

Vocal/The Sodom and Gomorrah Show/It's a sin

Left to my own devices

Go West

Domino dancing

Always on my mind/The Pop Kids (Offer Nissim drama version)

オープニングの「Inner sanctum」はほぼインストなのだけど、今回のライブのタイトルでもあるので予想された、当然のオープニング、とはいえこの荘厳さはROHに相応しい。緞帳が上がると二つの大きな半球体(桃?桃太郎フィーチャー?鬼退治有りなの?)、回転すると中からニールとクリスが登場!二人ともミラーボールのような被り物。どう?このアゲっぷり!ヤバい、泣きそう。今回はプロジェクションと照明に力が入っているな。続く「West End girls」はこれまでにライブではあまりやらない斬新な切り取り方をされている。それでも10“のロングバージョンなので、あまり聴けない中盤部分(No one knows your nameのとこをフィーチャー)が聴けてうれしい。 聴きなれた曲も、アレンジやバージョンが違うものに光を当ててくれるところはさすが。やはりこの曲あってこそのPSBの夜明け。そしていまだ謎。WEG30年以上何千回聴いていることか、でもいつも愛おしい。

2曲終わったところでニールのMC(短め)。そして「The Pop Kids」、この曲はアルバム「Super」のキモのようなシングル曲で(とはいえちょっとElectricの「Vocal」の兄弟曲っぽい)、ここで序盤からの盛り上がりを持ってきている。 PSBが一貫して持っている泣きながら踊るための切ないポップの正当な継承曲。ファンも待っていた曲。

え?「In the night」ですかこのイントロ?と、けっこうビックリした。TV「クロス・ショウ」のオープニングにも使われたキャッチーなリフだけど、歌の部分は正直下がる。何でこの曲入れたんだろ?この曲は1968年のパリ5月革命を思い出すけど。後ろでセット転換あり。3人のパーカッション&キーボード。ニールとクリスはミラーボールを取る(クリスの素の頭が見れるよ)。続く「Burn」のジャンジャンという鍵盤叩く感じが共通しているのかな。アルバムで聴くよりちょっとメロディアスかも。およそ30年の時差があるけど、「Love is a bourgeois construct 」もフレンチっぽいよね(ダフトパンク揶揄?)。前回Electricでもやったけど、ちょっと印象が違う。前回はなんとなく能天気に聞こえたけど、ちょっとシリアスに聞こえた。

パリの次は「New York City boy 」。世界を旅するのかな。あ、ダンサー出てきた。いかにもNYCにいそうなラッパー風。あれ、このダンサーは最初からはいなかった人だよね。今回はダンサーやサポート・ミュージシャン(&コーラス)の全貌がつかみにくい。何人いるのやら(ワールド・ツアーになると大所帯は大変)。

次はラテンの「Se a vida é」。幸福感が漂う、絶望した男の曲。サンバっぽくもあり、リオ・オリンピックへのオマージュ?ってこともないか(4年前のロンドン・オリンピックの開会式・閉会式を思い出す)。冷静に聴くとアレンジが凝っていて、Sheboonがレコーディングしたサンバドラムがフィーチャーされている。

続いてもラテン(レゲトン)使った新曲「Twenty-something 」この曲は、PVPSBらしくないってファンに評判良くなかったんだけど、単純にダンスフロアでかかる曲としては上がる曲。

がらりと変わって「Love comes quickly 」。ちょっと流れが変わった。イントロ長め(この曲に限らず、今回はイントロやインターバルが長くアレンジされているものが多かった)。この曲は本来ファルセット使うけど、2009年にPandemoniumツアーの前半期間で久々に演奏された時はもう、ファルセット使っていなかった。今回もそのバージョン。ファルセットの部分がとても美しい曲だけど、30年経っていまはちょっと難しいだろうな。ニールの挑戦かなぁ。でもやはり美しい曲。愛への考察は今でも変わっていないのかな。

Love etc.」も、やや意外な選曲。前回のElectricツアーでもやったけど、あの時のセットのファニーさの踏襲はなく、普通の演出。んん?曲は嫌いじゃないけど、今回は必要だったのかな?そして、素早くニールの着替えがあって、ロシア人のような出で立ち、Cubismの時の「Numb」みたい。あ、独裁者か、チェウシェスク?クリスはファントム?で「The dictator decides」。Superのなかでもかなりダークな曲調。さらにSuperから「Inside a dream 」。プロジェクションがニールのドアップでちょっとドキドキ。ここは静かなパート。ニール&クリスは真夏でも絶対に衣装は着込むよね、リゾートっぽいスタイルはないよね、露出ないよね、ケチだね。

Winner (Happy Sad version) 」!?これもオリンピック・メモリーかなぁ?流れ的に、ちょっと唐突かな?この曲ってすごく強くて印象的で特別感があって、しかも何かを成し遂げた人への賛辞というちょっと特別な感じの曲だから、何に対しての感情が動いたのか、ご本人に訊いてみたい部分の一つ。

Home and dry」めっちゃ好きだよ!しかもニールがキーボードを披露してくれる演出付きね!でもambient versionは、ライブではちょっとゴージャス感に欠けるかなぁ一人で部屋で泣きながら聴くバージョンだからなぁ。「The Enigma 」はアラン・チューリングの舞台「A Man From The Future」の時に使った曲だけど、ほぼクリスの独奏。どうしても入れたかったんだよね?プロジェクションも数学っぽくて、チューリングへの愛はすごく感じた。ここまでの中盤、しっとり部分がやや長かったような気がする。

名曲「Vocal」がかかり、ダンス・フロア再開。やっぱすごい。「The Sodom and Gomorrah Show」はいいよね。PSBのステージはすべて“S&Gショウなんだよね、背徳に満ちていて。今回は「Cubism」の時みたいなゲイゲイしい演出ないけど(全体を通して)。そういえば観客も不思議とストレートっぽく見えたいつも前のほうゲイ男子ばかりだけど、今回は少な目に思えたけど、気がしただけかしら。舞台監督エス・デブリンはややエモーショナルだけど、結局は正統派だよね。妖しさがちょっとだけ欲しい。デレク・ジャーマンのツゥーマッチな 80‘s懐かしい。そしてデレクを思い出したところで、最高にゴージャスな鉄板「It's a sin」!ああ、この曲なかったら、80年代ファン続けてなかったかもってくらい 、この曲のもつパワーとキャムプさにはホント頭が下がる。もちろんデレク・ジャーマンがセットで出てくる(そして同じ色彩の「カラヴァッジオ」も)。見えない王冠被った(たまに本当に見えてる)ニールにひれ伏し、永遠の忠誠を誓う時がやってきた!!!!ので、この曲は必須だなぁ。もう飽きている人もいるかもしれないけど、私にとっては完全に神に謁見する儀式。

Left to my own devices 」も大好き!この曲って、80年代彼らの皇帝時代の終わりの境目の曲、しかもPVが微妙だったせいで、これをリアルタイムで知っている人はけっこうずっとファンやっている人ってイメージあるんだけど、違う?少なくともこの曲収録の「Introspective」はアメリカのファン離れを誘発したアルバムなので(理由は長いリミックスばかりだったから、とか、PVがゲイゲイしかったからとかが、アメリカの保守層メディアから嫌われたらしい)、この辺りを乗り越えたファンは辛抱強いかなって。欲を言うと、この曲をオーケストラでやってほしかったな(トレヴァー・ホーンの25周年記念コンサートの時みたいに)。ここで一応、ライブは終了。ニールとクリスはGood-byeと言って手を振ってステージを去る。

お約束アンコール1曲目「Go West 」も「It's a sin」と双璧をなす鉄板なのだけどあえてこれを削る暴挙・英断はいつやってくるんだろうという思いに、そろそろ駆られている。この曲は、たぶん本人たちより、ファンのためにやっている感じがするので、確かに少なくともこの曲が発表されて以来ライブでやらなかったことってあったっけってくらいほぼ100%やってると思うので、もうおさめてもいいと思う。葬ってもいいと思う。本当になくなったらギャン泣きするだろうけど、それでも見送りたい。カバー曲はもういい、と言いたいのも本音。同じ理由で「Always on my mind」も(泣)。

Domino dancing 」はすでに合唱曲だから、当然アンコールや終盤になる。これはほぼ唯一、ステージと観客席をつなぐ曲。ニール、ほとんど歌ってない、オーディエンがほとんど合唱する。ニールのホレホレという煽りで、開場が完全に一体になる。ホントはもう23曲こういうのあってもいいと思うけど、こういうのって狙ってできるものでもなく、やはり自然発生が条件。ちょっと情けない内容の歌詞なのに、PSBが歌うと切なくて踊れるよね、不思議だ。

Always on my mind」も私的にはリストラ対象。ホント本音を言うと、割と初期からこのカバーはあまり賛成できなかった(プレスリーとウィリー・ネルソンのしっとりしたバージョンが良いので)。PSBにしてはすごく単純な感じ(実際にはそうでないにしても)もする。Introspectiveのバージョンみたいに手が込んでいるのならいいんだけどね、ライブではけっこう単純記号化して来ている。「The Pop Kids」再び。ニールはもう歌ってないけど、最後までクリスの方が残っているのってちょっと珍しいかも。終わり方の印象も、「Vocal」で余韻を残したElectricっぽいな

ああ寂しい、ライブの終焉はいつだって泣けてくる。

★★

30
年の歴史をたった100分に凝縮など、数百曲ある名作の中から選ぶのはとても難しいことだと思う。だからこそ、いつもファンたちは、どの引き出しが開けられるか注目している。どの曲が来ても驚きや歓喜で迎えられるほど、11曲はどれも素晴らしいが、ライブをアルバムのように一つの流れのある「作品」だとすると、その選曲やオーダーはとても重要だと思う。たとえば後からYou tubeなどで1曲1曲をバラバラに聴くのとはちょっと違う。明らかに空気感や余韻は会場内で全曲がつながっている流れだ。MCやハプニングがあるライブとは違い、PSBのライブは綿密に決められたプログラムがある場合がほとんどなので、そのオーダーもライブの評価を左右すると思う。それを考えれば、今回はモチベーションが何度か分断される流れだったような気がする。

以下、やや気になった点を。

@今回はツアーとは切り離された4日間だけのステージだと思っていたが、ツアーの前哨だったようだ。ROHなのにクラシックやバレエとのコラボがない!オーケストラ生演奏もなし。つまりROHでやる要素は?良い会場でチケット代が高いだけ?(一番高い席は100ポンド=チケ発売20161月当時のレートで17500円!)期待しただけに、これは本当に残念だった。

A舞台構成、ダンサーに既視感が多い。過去舞台とステージ・プロデューサー(エス・デブリン)と振付(リン・ペイジ)が同じせいか、舞台の雰囲気やダンサーの使い方(ニール&クリスの顔をあまり出さない、ダンサーに至っては最後まで全く顔を見せない)に新鮮味がなかった。Electricの続きのようだった。そしてまたもクリスが舞台向かって右に固定、ニールが中央からやや右での立ち位置。ここでなければならない理由は?

Bセットリストの選曲とオーダー。Superからの曲は少なめで、「え?それ?」と思わなくもない。個人的に好きな「Happiness」と「Undertow」が入ってなくて残念。選曲には謎が多く、逆に「In the night」「Home and dry」「Winner」は本当に謎。もちろん11曲はすばらしい。でもライブとなるとオーダーが重要になって来て、この3曲は割と他の曲とつなぎを分断させてしまっていたと思う。実際、観客もやや戸惑っていた。いつもライブでは中盤の後半あたりにしっとり目の“聴かせる”曲を持ってくることが多いが、今回は少しそれが長く、踊りたいのに踊れないじれったさを感じた。ほぼ30年間からまんべんなく曲を出している割には、選曲を考えすぎたような(あるいはあまり考えない?)気がする。

Cもういい加減に…と言ってしまっては名曲にとても失礼かもしれないけど、絶対に盛り上がる&絶対にライブに必要な「Go West」と「Always on my mind」をいっそのこと使わないという冒険もあっていいと思う。だいたいこの曲、カバー曲でPSBの曲じゃないし。いや、なきゃないで絶対さみしいに違いないけど、ライブ鉄板のこの2曲がなかったら、どうなるんだろうって、そろそろ見てみたい。でも「WEG」と「Its a sin」はマンネリだけど削らないで。

Dそしてそろそろオーディエンスへの愛想と絡みのあるMCを…。今回はクリスのソロやダンスなどのサービスやサプライズがなし。私はどこで声をかければいいのだ?!

ここ10年のライブでは、個人的には「Pandemonium」がとても好きだったのだけど、これと比べると、ちょっとどことなくさみしい気がした。いっそのことシンプルならそれでもいいけど、中途半端な豪華さが気になった。アルバム「SUPER」も「ELECTRIC」の続きっぽかったから、あえてこのライブもそうしたのかもしれないけど、スケールが縮小された気がした。

以上の私が気になった点は、ほかの人にとってはピンとこないのかもしれないけど、PSBのこれまでの圧倒的なステージに毎回驚かされてきた身としては、再びPSBの(自分の過去すら真似しない)誰も真似できない世界観で圧倒されたいという期待が強かった。

ライブから数週間、ずっと反芻して思い出したり見返したりしているけど、思いがあっちこっちに行ってしまうような気がして、自分の中でもまとまりがなくなってしまっている。PSBがいてくれるだけでいい、ライブやってくれるだけでいい、というのは確かにそう。ただのファンである自分が望むようなステージを求めるのは、すごく強欲のような気もする。いまあるものを単純に楽しめない自分は、なんて嫌なファンなんだろうとも思う。

秋からワールド・ツアーも始まり、今後は、このライブを基に精査してツアーにつなげると思うので、どこが変わったか、また確認したい。


 



 


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