†映像†1

REALISE PAR BOUTONNAT

ローラン・ブートナーは,ミレーヌ・ファルメールとは切っても切れない関係にあり,プロデューサーと言うより,ユニットと言っても良いほどブートナーの力は大きい.事実,ミレーヌはこのビデオで国民的トップシンガーになった.ビデオクリップとはいえ尺長でストーリー性が強く,色彩が押さえてあって,出演者たちが悲劇的なラストを迎えるのが常.当時から内容や長さが放送には適さないので,「MTVで流す」よりもっと積極的に「売る」ことを目的としていたようだ.一見きれいでセンチメンタルだけど、じわじわ効いてくる衝撃といった感じ.


「MAMAN A TORT」’84/(3min50)

ミレーヌ・ファルメールのデビュー曲.ビデオクリップは今では信じられないほどシンプルで,フレンチロリータっぽい歌い方で,アイドル歌手風である.珍しくミレーヌ自身の作詩ではない.JEROMR DAHANの作詩の内容は,「看護婦に恋した患者」の嘆き!?

ちなみにミレーヌの2枚目のシングル「ON EST TOUS DES IMBECILES」(バカばかり)はアナログレコードで,生産数が少なく,アルバム未収録でCDにもなっていない幻の作品.かつて8年ほど前,のみの市でF500(約¥9000)で売っていたのを見たことがあるが,さすがに断念.


「PLUS GRANDIR」’85/(7min32)

本格的にビデオ製作に乗り出したのは,この3枚目のシングル.まだちょっとロリ風.

墓地で乳母車を押すミレーヌは,自分の名前の墓碑を発見.寄宿生らしき彼女の姿とオーバーラップする.「PLUS GRANDIR!(オトナになりたい!)」と願う彼女の部屋に,1人の男が押し入り,痛々しくも彼女をレイプ.その後,彼女は覗き見していた小人の修道女たちの殴る蹴るのお仕置きを受けるが,どんどん年を取り,最後には老婆になってしまうというもの.今でこそなんでもありのMTVだけど,なんせ17年前ですから,こんなに暴力的なビデオはTVで流せなかったに違いない.すでにハダカになっているのと,レイプにもかかわらず舌をチラッとさせる所が彼女らしい.トレードマークのオレンジ色の髪ではなく,薄いブラウンの髪.


「LIBERTINE」’86/(10min53)

ついにミレーヌ姐さんの本領発揮.時代は18世紀のフランスと思われる.当時の社交界には彼女のような男装の麗人(ミレーヌは”LIBERTINE=娼婦”らしいが)がいっぱいいたらしい.

森の中の決闘で,ミレーヌはある男を撃ち殺す.その後,ミレーヌは宮殿内で女の子とお風呂入ったり行きずりの男とベットを共にしたりするが、彼女が撃ち殺した男の妻(か愛人)が居合せて,ミレーヌを発見してしまう.詰め寄る女と,覚えていないミレーヌ.突然,女はミレーヌのアタマを瓶で殴る.衆人監視のもと、二人の取っ組み合いのキャット・ファイトが始まる.血だらけ!女がとどめを刺そうとした寸での所,ミレーヌはさっきの男に助けられる.二人で馬に乗り,宮殿を後にした所,待ち伏せしていた女により,二人は騎乗で蜂の巣にされてしまう。

復讐する女の役に,ダンサーで女優のソフィア・テイラーが扮しているが、彼女はこれを含め4本のビデオに出演、コンサート・ツアーに参加もしている.


「TRISTANA」’87/(11min33)

「ロシアの白雪姫」.シガニー・ウィ-バーが継母を演じた映画「スノー・ホワイト」は,これをパクったんじゃないかと思うくらいイメージが似ていた.

ファンタジー仕立てでありながら,挿入されるロシア革命の映像,ざっくり顔を切られるヒロイン・トリスターナ(ミレーヌ)の恋人,目をむいた女王(ソフィア・テイラー),7人のホントの小人,狼に食い殺される刺客…。なんと言っても,恋人のくちづけでも生き返らないトリスターナの氷の上の葬列でしょうか.


「SANS CONTREFACON」’87/(8min43)

記念すべき,私が初めてミレーヌのビデオを見たのがこの作品.6分くらいまでミレーヌ本人が出ておらず,フェリーニの映画のような寂しい,本物のはみ出しものであったかつての見世物サーカス団と,荒涼とした浜辺が痛いほど悲しくて,当時バブルで沸く日本に違和感を感じてうんざりしていた私は,強く引きつけられました.

歌詞に「私は男の子」と歌われている通り,彼女は男の子の人形として画面に登場する.孤独な人形遣いの男は人形と旅をするうち,サーカス団の女に人形を持ち去られてしまう.探してたどりついた先に,人形は人間の女の子として存在していた.人形遣いは彼女を抱きしめるが,サーカスの女が去ってしまい,気がつくと彼女は人形に戻っていた.色のない海岸で男は叫ぶが,あるのは孤独だけ.果たして彼女は人形遣いの願望による妄想だったのか,サーカスの女は魔女で、人形に魔法をかけていたのかはわからない.

常に能動的で小悪魔のようなミレーヌが受動的なものであるという,珍しいパターンだ.


「POURVU QU’ELLES SOIENT DOUCES」’88/(17min52)

「LIBERTINE」の続編.なんと18分近くあり,戦争映画というノリ.

前回血だらけで終わった二人だったが,まだ息のあるミレーヌを助けたのは,フランスと戦争中のイギリスの小隊だった.彼女を助けた小隊長は彼女と恋に落ちるが,小隊は娼婦に化けたフランスのスパイの女たちによって骨抜きにされていた.寝込みを教われた兵士たちはすでにフランス軍に囲まれていた.娼婦の頭は,ミレーヌの宿敵のあの女である.彼女はスパイとして小隊長を殺すが,同衾していたミレーヌとまたもや肉弾で戦う羽目になる.10分近く戦闘シーンがあり,ミレーヌの宿敵女は死に,イギリス小隊もほぼ全滅.残ったのは瀕死のミレーヌを見つけた少年兵のみだった.彼の前に黒馬で現れるミレーヌだが,少年のモノローグでは,「彼女は悪魔だ,決して目を見てはいけない」となっている.

映画そのままのメイキングもあるが,やはりミレーヌは天使ではなく,悪魔の方に属しているのね。ちなみに歌詞は異常性愛に関する詩で,タイトルを直訳すると”あれがやわらかかったら良かったのに”で、映像を含めて何度もお尻に言及していることから,「あれ」とは「お尻」かな,と邪推もできるのです.ゲーンズブール&バーキンの「JE T’AIME,MOI NON PLUS」みたいなものか.


「AINSI SOIT JE...」’88/(5min23)

ミレーヌの「心の歌」ともいえます.珍しくストーリー性は薄く、イメージが中心のビデオ.とはいえ、なぜか悲しいイメージがつきまといます.かわいいんですが、ハダカだったり、顔にドロ塗ったりしています.


「SANS LOGIQUE」’89/(5min37)

私のベスト3に入りますです,このビデオ.背景もほとんど色がなくて,出演者はみんな黒尽くめ,ミレーヌの髪の色だけが明るい色。非キリスト教的な宗教観で血の契りを交わすジプシーの男女.彼らの前に現れた亡霊のような老人たちのために闘牛ごっこを始めるジプシーたち.ミレーヌは牛に,恋人はマタドールに扮し,観客は小銭を投げる.熱狂の中,ふと憑かれたように彼女は恋人を角で突いてしまう.倒れながら彼女に理由を尋ねる男だが,女は訳がわからない.去ってゆく老人たち,小銭を拾う他のジプシーたちの上に,雨が降る.恋人を失った彼女は血の涙を流す.

このビデオは詩のイメージそのままである.”自分の中の誰かに苦しめられている””訳もなくあなたを刺してしまいたくなる”など、二重人格も、ミレーヌのテーマの1つである.

 


「A QUIO JE SERS」’89/(4min58)

2枚目のアルバム「ains soit je...」がゴールドディスクをとった後発表された、アルバム未収録のシングル.

全面白黒で撮られたビデオ.ミレーヌはこのシングルを発表後、インドに行ったり、しばらくお休みするのですが、このビデオの内容は、「もしかして引退?」と思わせるような感じだったのだ.河を渡る船に乗り込んだ彼女が、突然霧の中から現れたこれまでのビデオに登場して死んだり別れたりした人物たちと一緒に河向うに行ってしまう(船が霧から現れた時には、船頭しか乗っていない)というもの。そう思わせてもおかしくない儚さが彼女にはあったし、詩の内容もどっぷりネガティブだったので、本当に死なないか心配したものです.(日本では情報もなかったので)

でも、彼女はパワフルになって、帰って来ました.


「DESENCHANTEE」’91/(10min12)

ミレーヌ再び男(?).撮影は極寒のハンガリー.浮浪者収容所?手がない人、脚がない人、矯正労働をさせられる人々が、本当にきったないところに押し込められている所に、ミレーヌはやってくる.あまりの扱いのひどさに反乱を起こしたミレーヌは、8月革命の民衆を率いる女神そのもので(男装してるけど)、またもやメチャクチャバイオレンス。先導する彼女が脱走した町の外は、何もない荒野.タイトル通りの「幻滅」が待っているというもの.それでも歩き出す人々だけが唯一の救いというもの?ひどすぎ!!


「REGRECTS」’91/(6min17)

フランスの有名シンガージャン・ルイ・ミュラとのデュエット.ミュラの声って,甘〜いのよね。

歌の内容は、逃げる女とやりなおそうとする男.ゆえ、デュエットとはいうものの、二人で一緒に歌っているのではなく,お互いがそれぞれのパート(体温的なずれがある)を歌っているのがおもしろい.


「JE T’AIME MELANCOLIE」’91/(5min13)

ミレーヌが、ビデオの中で女のしたたかな強さを全面的に出している.もう彼女はお姫様でもなく,人形でもなく,自らグローブを投げ捨て,リングの上で、男をボコボコにします。この曲の含まれたアルバム(「L’AUTRE」)は、当時のフランスの流行を反映して,かなりハウスっぽい作りで,この曲がもっともクラブでかかっているような音をしていたように思う.ゆえにダンスで構成されている.

 


「BEYOND MY CONTROL」’92/(5min00)

ちょっと基本に戻った感があり,ミレーヌが魔女のように火あぶりになるようなイメージ.フラッシュバックされる、男と女(ミレーヌではない人)のベットシーンと,それを覗き見るミレーヌ.ミレーヌが男にキスすると,男がどんどん血まみれになっていくのね〜。


「LES MOTS」’01/(??min)

  実に10年ぶりのブートナーの監督作.ファンは待ってましたという感じです.

イギリスのアフリカ系歌手SEALとのデュエット.海を漂流する男と女.絶望に打ちひしがれる女だが,男の愛によって生きていく希望を見出すが,その途端、再び荒れた海の中に男は沈んで行ってしまう.それでも生きていく決意の女。二人の感情の変化が微妙なだけに,辛く悲しいラストである.それが良さなんですけどね.


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