ACTUALLY1-10

Kings Cross



ニール:何もかもサッチャー首相のせいだ

(一言コメント:1999)

 

 


原文歌詞はこちらでご確認ください


列の一番うしろの男は
堅実な政府に苦い思いをさせられた
ポスター張りとけんかをした
毎晩同じことが繰り返される
僕は傷つき、僕らは負けた
君は家をでて、帰ってこなくなった

月曜日にも、土曜日にも、誰かが僕に言った
明日まで待て、それしか方法はない
本を読んでも、手紙に書いても
朝起きれば、その保証はないのに

迷子になったとわかったのは昨夜
キングス・クロスという駅で
死と瀕死は紙一重で
それは時間の問題に過ぎない
僕は善人であり、悪人でもある
何もしなかったのが僕の罪

月曜日にも、土曜日にも、誰かが僕に言った
明日まで待て、それしか方法はない
本を読んでも、手紙に書いても
朝起きれば、その保証はないのに

僕は今日、探しに行った
逃げていった人を
殺人者がうろついている
キングス・クロス駅の隅を
幸運も、不運も、同じ線路上にある
時間の問題だ

月曜日にも、土曜日にも、誰かが僕に言った
明日まで待て、それしか方法はない
本を読んでも、手紙に書いても
朝起きれば、その保証はないのに
保証はないのに


Written by Neil Tennant/Chris Lowe

Produce by Stephen Hague


ニール:キングス・クロスってのは、ロンドンの駅で、北へ向かう列車の玄関口なんだ。いつも人でごった返している。スコットランドや北のほうからロンドンでの新生活を夢見て若者たちがやって来るんだけど、駅にはアル中や浮浪者がいっぱいいて、いつも暗い感じなんだ。社会からはみ出してしまった人々が集まるようなとても哀しい場所であるのと同時に、ともに北イングランドの出身の僕たちにとっては、故郷とロンドンをつなぐ場所でもあるのさ。駅って独特の雰囲気を持っていると思う。別離の悲しみと出迎えや旅立ちの興奮の入り混じったような。そんな雰囲気を出したくて列車の音を入れてみたりもしたよ。駅のほうが港よりもずっと悲しいような気がする。多分列車の音がそうさせるんだと思うけれど。

(
以上、1987年レコードライナー本人解説より)

 

 


ニール:これは、クロイドンの近くの家で書き始めて、それから、ウォンズワースでデモをやった。 それは基本的に僕たちがそこでやったデモのリメイクだ。アイデアは、 僕らの友人のピートとスティーヴのふたりと一緒にキングス・クロス駅を車で通り過ぎた時にできたものだ。スティーヴは実際に「だれかが、土曜日にも月曜日にも僕に言った」とささやいた。で、僕は「キングス・クロス・・・歌にいいアイデアだな。」と思った。彼が何について話していたのかはわからないんだけど・・・サッカーの試合か何かだったろう。僕は、矛盾した支持を与えられたと言うアイデアが気に入った。それで、誰かにこき使われている歌のアイデアが浮かんだ。それから、僕は”wait until tomorrow, and there's still no way(明日まで待て、それしか方法はない)"を思いついた。クリスの部屋に着いて、それを書き留めた。僕はギターで曲を書き始めた。すごくボブ・ディランみたいだった。デモはすごくゆっくりだった、賛美歌みたいにね。キングス・クロスは北東部からロンドンに来る時に到着する駅だ。イングランドで最も景気の悪い地域のひとつだ。キングス・クロスの周りは犯罪も多い・・・売春婦、麻薬常用者、多くの放浪者が近づいてくる。僕は、それをイギリスのメタファーそのものと考えた。チャンスを期待している人々がその場所に到着しても、何も起こらない。失業手当の行列とか、NHSの書類調査とか。希望が打ち砕かれる。するべきことに関して本を読むか、紙に手紙を書くことができるけど、だれも気にかけないから、まだ何も起こらない。 最初の歌詞は歌をセットアップする。 これはサッチャリズムに対して腹を立てている歌だ。ミセス・サッチャーは堅実な政府を約束して政権を取ったけど、僕は文字どおり誰かが痛手を負う”堅実な政府風”だと解釈している。堅実な政治の意図する傾向があるのはそれだ・・・もっとも弱い人間、列の最後の男を殴るということだ。"only last night I found myself lost...(迷子になったとわかったのは昨夜)は、ほとんど聖書みたいだと思う。叙事詩的な悪夢みたいだ。The dead and wounded on either side, it's only a matter of time(死と瀕死は紙一重で、それは時間の問題にすぎない)は、エイズの指摘だ。最後のso I went looking out today(それで僕は今日探しに行った)は、探偵がいて、彼は誰かを探していて、この神話的場所、キングス・クロスは終着駅で、逃げ場のない死のある場所だ。全ての希望の死。僕は、ここで待ち続けるのでは足りないと言っている。突き破って、行動して、革命を始めるんだ。運命の中だけでしか動くことができない。僕らのベスト・ソングの一つだと思うよ。デレク・ジャーマンが1989年のツアーのために撮った、クリスが電車から降りるビデオもすごく気に入っている。

クリス: すごく哀しい。

ニール:僕たちがスティーブン・ヒューグとそれをレコーディングしたとき、彼は、僕たちが加えた中間のキー・チェンジをそのままにすべきだと指摘した。 彼は、キングス・クロス駅から北ロンドンへ通る電車の音を録音して来た。聞こえるでしょ。最後の歌詞は、僕がニューカッスルからの親友との議論から来ている。彼はすごく落ち込んでいたんだけど、僕らはすごくラッキーで、彼はアンラッキーだから、僕らがここまで来れたと言った。彼は言った。「君は否定しないだろうけど、ニール、君の人生はすごくラッキーだった。」と。僕は「これはラッキーについてじゃない。何をしたいかを知ることで、それに執着することだ。」と言った。次の日、ちょっと罪の意識を感じた。僕らのしていた生活方法の間に、このぞっとするような対比があるように思う。アルバムの当初のランニング・オーダーでは、「King's Cross」は最初のトラックだった。友達はこれを聴いて言った。「うん、すごく素晴らしい。君はアルバムをマジでつまらなく聞こえるようにしちゃった」って。このアルバムが発売されて、キングス・クロス駅で火事があった。「The Sun」は、これをチャリティー・シングルとしてリリースしろって書いた。

クリス:で、僕らの映画、「It couldn't happen here」では、炎の男の場面で使われている

ニール:すごく気味が悪かった。監督のジャック・ボンドは、亡くなった誰かの未亡人に聞いた。で、彼女は「それは残すべき」と言った。

 (
以上、2001年ブックレットより)


 

イメージビデオ(You Tube)




デレク・ジャーマン映像集「Projection」より。ツアーのバック映像に使用された。

★用語・人物メモ★

キングス・クロス駅・・・ロンドンの中心からやや北に位置する国鉄駅。北の玄関口。東京で言うと上野駅。偶然、このアルバムが出てすぐの19871118日に火事が起こり多数の死者を出したり、200577日にはバス・テロの現場にもなるなど、事件現場にもなっている。先日、隣接するセント・パンクラス駅がTGV(フランスなどを結ぶ新幹線)発着駅になったので、この地域の浄化と、今後の発展が期待される。

ワンズワース
Wandsworth・・・ロンドンの西南、サウスバンク。

NHS・・・National Health Serves。イギリスの保険制度。

デレク・ジャーマ
Derek Jarman (1942-1994)・・・イギリスの映像作家。PSBの「Its a sin」「Rent」のPVを監督。他に1989年のツアーディレクターを務め、そのときにステージのスクリーンに映すために使用する映像も全て撮った。





 シングルになってもおかしくないほど洗練された曲。ここでも、彼らは痛みを社会から受けるけど、ただそこにいて堪えることしかできない。たしかにイングランド人はそういう傾向があると思う・・・。革命を起こして社会を変えようとした(実際、今でもストやデモが大好きな)フランス人なんかと比べると興味深いと思うけど、だからといって彼らがこの曲に“変えて欲しい”という気持ちがこもっていないとは思えない。

 PSBをリスペクトするデュオ、ル・スポルトが「Love Train from King
s Cross」という曲を捧げている。



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