YES 1-8

King of Rome


原文歌詞はこちらでご確認ください



小さな人間
大きな世界
境界を超えていなくなる
僕は君を知っている
裏の裏まで
物語を語ることができる

空を横切る
時間の変化
昨夜、僕は1日じゅう迷っていた
僕はあちこち
どこにでもいる
マンデレイから離れて

そして、もし僕が
ローマ王だったなら
もっと悲劇的だったのかも
彷徨うのが僕の運命
家から遥か遠くまで
無くした魔力を探して

ああ、ベイビー、戻ってきて
ああ、ベイビー、僕のところへ

砂漠の月
新しい礁湖
僕たちは表面を滑空する
夜は速く暮れ
投げかける影もない
目的なく辿り着く 

ああ、ベイビー、電話して
ああ、ベイビー、今日、僕に電話して

そして、もし僕が
ローマ王だったなら
もっと孤独だったのかも
あまりにも多くの機会で
夢を見て、望んでいる
いつか君は、喜んで僕に電話してくれるだろう

ああ、ベイビー、電話して
ああ、ベイビー、今夜、僕に

僕は切望する
君の計り知れない青ざめた顔
僕を渇望させる
君の美しい抱擁


Written by Neil Tennant/Chris Lowe


Produced by Xenomania




ニール: この曲は最初から最後まで「The King of Rome」と呼ばれていた。ナポレオンの息子のローマ王について書こうと考えた。ナポレオンはジョセフィーヌと離婚をした。彼は跡継ぎが欲しかったけど、彼女は跡継ぎを産むことが出来なかったからね。それでナポレオンはオーストリア皇帝の娘と結婚した。彼らの間にはすぐに男の子が生まれた。生まれてすぐ、彼はローマ王であると宣言された。ナポレオンがイタリア王だったからだ。5年後、ナポレオンは追放された。この少年はオーストリアの宮廷で育ったけど、ナポレオンの息子ということで、人々の注目の的だった。彼には家族が一人もいなかった。孤独だったんだ。父親を知らなかった。彼はまさに孤独と流浪の特別なシンボルのよう見えた。それはとても詩的な名前、ローマ王だ。僕はある日、この歌詞を考えた。


If I were the King of Rome (もし僕がローマ王だったら)

 /I couldnt be more tragic (もっと悲劇的だったのかも)

/ my fate to roam so far from home (故郷から遠くさまよう宿命)

/in search of my lost magic(失った魔法を探して)

クリス: 僕が音楽を書いた。言ったように、すべてがマジで簡単だった。書いてる間じゅう、全身に電流が流れてた。

 

ニール: 君は本当に、このアルバム全部の音楽を書いたね。

 

クリス: うん、かなりたくさん仕事をしたよ。その間ずっと、君は車の運転教習をしてたから。それがこのアルバムで起こったことだ。彼には、2時間の運転教習が必要だった。

ニール: いつもは、僕がピアノで書いたベースの歌がある。例えば「Luna Park」がそう。それからクリスが仕上げる。実際に、このアルバムにはそれが1曲もない。僕は運転を習っていたからね。

 

クリス: 1時間のレッスンだけじゃなくて、2時間のレッスンだったな。

 

ニール: 3時間ってこともあった。で、戻って来て、ランチのために僕の姉のところまで運転していく。それで僕は運転の実技ができた。で、また戻って来て、クリスと僕はドライブに出掛ける。僕はそれで、その後のことを台無しにしていた。

 

クリス: ニールはソファーで居眠りしていた。泳ぎにも行ってたかも。

 

ニール: ランニングもね。

 

クリス: ランニング!それで、実際に僕は、作曲をしてほとんどの時間をスタジオで過ごした。

 

ニール: 運よく僕はすばらしい歌詞をたくさん作ってあった。

 

クリス: 実は、むしろよく仕事ができた、全部ね。

ニール: 僕は「The King of Rome」のために作詞していた。ほぼ全体の歌詞を書いたら、代わりに「The King of pop」であるかもしれないと突然思った。「The King of pop」というフレーズは好きじゃないけど、「Rome」は上手く歌える。でも、世界を終わりなき放浪をしている悲劇的な人物は、マイケル・ジャクソンのことかもしれないと思っていた。それが、2番にとても不可解な歌詞がある理由だ。

 

Beneath the moon(月の下で)

 / a new lagoon(新しいラグーン)

 / we glide upon the surface(表面を滑る)”

 

まるでドバイに来ているようだ。彼らは砂漠のど真ん中に湖を建てた。それが僕の考えていたことだ。たぶん、ショッピング・センターの真ん中に湖まである。実際には、初めはマイケル・ジャクソンについては書いてはいなかったけど、マイケル・ジャクソンを暗示したのはラグーン(礁湖)だ。とにかく、ブライアン・ヒギンズは、それがマイケル・ジャクソンのことになるのには乗り気でなかった。もとに戻すよ、と彼に電話した時に、彼は”ああ、「The King of Rome」に戻そう”と言った。実は彼、この歌のことをよく「Baby come back to me」と呼んでいた。

クリス: それか、「It couldnt be more tragic(もっと悲劇的だったかもしれない)」が、この曲の彼の別のタイトルだった。音楽は全く変わらなかった。僕はもうちょっとプロダクションを予想してたけど、ブライアンはそれが気に入っていた。それはただのドラム・ループだった。

 

ニール: 僕はそれをもう一度歌った。“last night I lost a day(昨夜、僕は1日を失った)”とは、僕がクリスとチリからニュージーランドまで飛行機で移動して、(時差で)1日が無くなった体験から来た歌詞だ。僕はノートに歌詞を書き留めた。

 

クリス: ああ。僕たちはほとんど死にかけたんだよね。チリからのフライトで(注:2007年、彼らの乗った飛行機に、人工衛星の残骸が衝突しそうになった…新聞記事にもなったあわやのニアミス)

 

ニール: 全く。 この歌のもう片方の側面は、Daphne de Maurierの「レベッカ」だ。

 

クリス: いま読んでいて、ほとんど読み終わるとこ。面白い本だ。

ニール: 僕は放浪について考えて、オリジナルバージョンの終わりでレベッカを読んでいる。「昨夜、再びマンダレーに行った夢を見た。道路に至る鉄門のそばに立っているように思われた。しばらく僕は入ることができなかった。その道が閉ざされていたからだ。南京錠とチェーンが門にかかっていた。」かなり気に入ってたけど、それが少し大げさだなと思った。さらに著作権の大きな問題があった。最後にコード・チェンジがある。“I think of your inscrutable pale face”のところだ。実際は、リヒャルト・シュトラウスの「Metamorphosen(変容)」からのコード・チェンジだ。僕はアルバムに少し影響を与えた本を読んでいた。Alex Rossの「The Rest Is Noise(20世紀のクラシック音楽評論本)だ。時々彼がコード・チェンジを与えてくれる。彼からこれをもらい、僕たちはそれをこの曲の中にプログラムした。リヒャルト・シュトラウスの「Metamorphosen」は僕の音楽の好きな作品の1つなんだ。

(以上、Literally 3420097月より)




テナント「僕は、この曲はアルバムで最も美しくて悲しい歌であると思う。 それは僕の歴史的な歌詞の1つだ。ローマ王はナポレオンの息子で、実際に短い間、ナポレオンII世だった。ナポレオンが破れて追放されたとき、母親がオーストリアの姫であったナポレオンの息子は、ウィーンに連れて行かれた。彼は二度と父親に会うことはなかった。母親にさえめったに会えなかった。彼は、ナポレオン後のフランス政府に対する、多くのナポレオン的な考えの復権ポイントの焦点になった。彼は結核でかなり若くして死んだ。決して多くを達成し得なかったけど、生まれながらに彼はローマ王だった。僕は、彼はとてもとても悲しくて悲劇的な人物だったと思う。歌詞のインスピレーションは、悲劇的なラブ・アフェアから逃げるために世界を放浪する誰かだ。ノエル・カワードがよく書いたみたいな。さらにそれは、人生にルーツを与えたものが消え去ったので、どこに行ってもルーツや国籍がないという考えだ。」

(
以上、Big Issue in the Northより)




ニールがナポレオン皇帝の息子にインスパイアされて書いたという曲だ。タイトルのようにポエティックであり、ロマンを感じさせる内容である。
「ここでのローマ王というのは、ナポレオン皇帝の息子のことを言っている。ナポレオンが亡命しようとした時、生まれながらにしてローマ王と宣言されていた息子は、ウィーンに追放されて、二度と父親の顔を見ることはなかったし、母親にもほとんど会えなかった。非常に不運な人だったけどナポレオン体制の復活を望んでいたフランス人たちにとっては希望の星であった。しかし、若くして結核で亡くなっている。とても悲しい人物だ。彼に関する本を読んでみて、亡命させられて、両親のこともよく知らず、本当に寂しかったに違いないと思った。それがアイデアになっていて、故郷から遠く離れた場所にいる人、結婚がうまくいかなかったとかそういう理由で人を恋しく思っている人のことを歌っている。歌詞もそうだし、美しい曲になっている。元から美しい曲だったけど、ブライアン・ヒギンズが巧みに編集してくれてね。元々中盤にあった部分が最後に来ていて、ギター・パートも素晴らしいし、トランペットもスタジオに来て演奏してもらった。とっても美しい雰囲気の曲だと思う。」(ニール)

 (以上、2009年「YES」ライナーより)

 

 

ビデオ(アンオフィシャル)(You Tube)




★用語・人物メモ★

Manderley
・・・イギリスの女流作家、ダフネ・デュ・モーリアの1983年の小説「レベッカ」に登場する、Maxim de Winterの屋敷の名。「レベッカ」はヒッチコックの映画で有名。この小説/映画はプラトニックかつクローゼットな同性愛映画としても知られている。ちなみにアメリカ版「Queer as folk」(ゲイドラマ)でも登場人物が住む家の名前として登場した。

King of Rome
1811-1832)・・
ナポレオン2ナポレオン・フランソワ・シャルル・ジョゼフ・ボナパルトNapoléon François Charles Joseph Bonaparte)は、ナポレオン・ボナパルトの息子。ローマ王、ライヒシュタット公。生まれてすぐにローマ王とされたが、ナポレオン失脚により母親(ハプスブルグ家マリア・ルイーゼ)の故郷オーストリアに渡り、以後父親に会うことはなく、わずか21歳で亡くなった。

マイケル・ジャクソンMichael Joseph Jackson (1958-2009)…キング・オブ・ポップ。彼の死は本当に衝撃的だった。これまでPSBはマイケルについて、自分たちに与えた影響などを語った事はほとんどなかったと思う。マイケルが亡くなってすぐの626日、PSBは自分たちのライプツヒのコンサートで、追悼として「You are not alone」を流した。

Alex Ross(1968-)…アメリカの音楽ライター。カナダで同性婚をしている。代表作「The Rest Is Noise: Listening to the Twentieth Century(2007)20世紀のクラシック論。




 訳していて、涙が出そうでした。曲の美しさも知っているから、聴きながらだと、もっとです。なんでこんなに悲しく、美しく、静かに、孤独を表現できるのでしょう。この曲を聴くと、“流れていく”のを感じます、感情と、時間と、そして場所さえも。ヨーロッパのどこかの知らないカントリー・サイドを、少し期待と不安のうちに電車で移動しているような、そんな感じになります。傑作ですね。PSBはポップでダンスが語られがちだけど、こういうメロウなスロー・バラードこそ、PSBのロマンティシズムの真髄なのではないかと思わされます。



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