RELEASE
2002.April.1
●世界有数のヒット・メイカー・2年半ぶりのスタジオ・アルバム
「ウエスト・エンド・ガールズ」「ゴー・ウエスト」「SE A VIDA E−幸せの合言葉」そして99年秋「ニューヨーク・シティ・ボーイ」・・・数多の「切なポップ」を生み出してきたマイスター、ペット・ショップ・ボーイズを発売する。新作のタイトルはなんと「RELEASE」!そのまま「発売する」という意味もあり、「解放する、自由にする」という意味も合わせたんだそう。(アルバムのアートワークにも花が使われているが、花からも花粉が発散(リリース)されている、という意味があるとのこと)単純そうなものに裏の意味を持たせるPSBらしいヒネリは健在。そしてその新作はそのタイトルどおり、縛られた何かから心をほっと解放(リリース)してくれる、そんな肩の力の抜けた大人ポップスな一枚に仕上がっている。ちなみにこのアルバム、タイトルは写真家のウルフガング・ティルマンスが「リリースってつけたら?」と言ったところからPSBのメンバーも「面白いね」と気に入って生まれたそうだ。
●シンプルで心のこもったアルバム。ジョニー・マー参加も話題。
「前作の“ナイトライフ”は非常に作りこまれた作品だったから、今回はシンプルな音のアルバムにしたかったんだ。ポイントは歌であり、歌詞。より心のこもったアルバムだよ。」とニール・テナント。今回はなるべく全ての作業を自分たちで手がけるようにしたそうだ。そしてアルバムではジョニー・マーが10曲中7曲でギターを弾いているのも嬉しい。ジョニーとペット・ショップ・ボーイズは今までにも何度も共演しているが、今回は去年、数年ぶりに通りでバッタリ出会ったという偶然からこのアルバムへの参加が決まったそうだ。
今回も様々な人間模様が歌詞に映し出されている。「アイ・ゲット・アロング」は一見恋愛のようでいて、ブレア首相の右腕として知られるピーター・マンデルソンが内閣から失脚したことをブレア首相の立場から描いたもの。「ホーム・アンド・ドライ」「Eメール」は共に遠距離恋愛を描いている。「ザ・サムライ・イン・オータム」は、1999年から2000年にかけて行われた世界ツアーのときのドイツの新聞の見出しだったそうだ。(前回のツアーでは、日本の袴にインスパイアされた衣装とかつらを使っていた)
●初のミュージカル、ライヴDVD、別ユニットでの活動・・・・多忙を極めた2000〜2001年にアルバム制作
去年は初めてミュージカル(ロンドンのみで上演された「Closer to heaven」)を手がけたり、11月には売れっ子リミキサー、ピーター・ラウホーファーとThe
Collaborationというユニットを組んで見事全米クラブプレイ・チャート1位を獲得、さらにはライブDVD「モンタージュ(ザ・ナイトライフ・ツアー)」を発売したりと非常に多忙だったPSB。その多忙な中、アルバムの制作は一昨年の秋から行われたそうだ。
●新作は2月、大学のコンサート・ツアーでファンに初披露して大好評
アルバムの新作は2月8日から13日まで全英5箇所の都市で行われた大学ツアーでファンに向けて初披露された。PSBが大学でライヴを行ったのは初めてのこと。このショウでは、新作の方向性を反映して、ニール・テナント、クリス・ロウに加えてステージ上にはギタリスト2人、パーカッショニスト1人を加えたシンプルなラインナップ。ジョニー・マーは残念ながらスケジュールの関係でこのツアーには参加しなかったが、ライヴの反響はすこぶる良く、特に新曲へのリアクションがよかったと、イギリスの新聞、雑誌のライヴ評は伝えている。
●ニュー・シングル「ホーム・アンド・ドライ」のビデオは写真家ウルフガング・ティルマンスが初監督して話題
1月15日ロンドン/セルフリッジに出来た新しいアート・ギャラリー“Inside Space”で、一昨年ターナー・プライズ賞を受賞した写真家ウルフガング・ティルマンスによるニュー・シングル「ホーム・アンド・ドライ」のプロモーション・ビデアの試写会が行われた。ティルマンスが映像作品を手がけるのは初めてのこと。アート・ファッション関係者の間でも話題となっている。ロンドンの地下鉄の線路にいるネズミを映したビデオだが、ロンドン子だったら多くの人が一種の郷愁を抱くこの風景、都会の何気ない一コマを切り取って時代性やその都市の空気感を見事に表すというティルマンスらしい作品となった。もちろん普通のプロモーション・ビデオとはかけ離れた作品だけに、TVオンエアーではかなり新鮮なものとなるだろう。なお、このティルマンス・バージョン以外のビデオも現在検討されているが、現時点での到着は未定である。(注:ターナー・プライズとは美術界におけるアカデミー賞のような賞。将来有望なアーティスト1組に毎年授賞される)
★★★★★★
Q.後悔していることは?(「クローサー・トゥ・ヘヴン」について)
クリス:ないね、全くない
ニール:全然ないよ、何一つ。僕は「クローサー・トゥ・ヘヴン」もすごく気に入っていたし。あれを表現するのは、本当に本当に難しかったんだ。ウェストエンドのミュージカルをやるっているのはね。それに、ミュージカルはいろいろ上演されてきたけれど、例えばクィーンのもあったし、マッドネスのも上演予定だったし、アバのもあったし、バディ・ホリーの物語もあった。誰かの一連の曲を基にしたミュージカルというのがあるんだよ、だから僕らは僕らの曲を「ウエスト・エンド・ガールズ」と名づける事だって可能だったんだよ。そこに以前の僕らの曲をみな取り入れてね。でもこのミュージカルでは何か新しい曲を書きたかったんだ。テーマをこのミュージカルのために新たに考えて、音楽のプロデュースの方法も、ミュージカル用に新しくしたかった。コンテンポラリーなポップ・ミュージックをミュージカルに採用するといったようにね。つまりこれはすごく野望に燃えた企画だったんだよ。僕らは大当たりすることを思い描いて、テーマを決めたりしなかった。そういうことはしなかったんだ。15年立ってもまだ上演されているようなものを作るつもりはないってことを、まず誰に対してもはっきりとさせておきたかったんだよ。まあ、もしかしたら15年後に誰かがこの作品を上演するかもしれないけど、でも僕らは「オペラ座の怪人」みたいなものをやるつもりはなかったんだよ。もしその気だったら、「オペラ座の怪人」的な物をやることはできる。多くの観客を集められるようなテーマを選んでね。多くの人々が、「クローサー・トゥ・ヘヴン」に関して問題にしているのは、その辺りのことだとわかっているよ。自分ではエンターテイメント性が強いと思ったんだ。まず大部分がコメディだとね。とっても笑える。曲もすごく面白いんだ。マネージャーが歌う「コール・ミー・オールド・フャッションド」(時代遅れと呼んでくれ)っ曲があるんだけど、彼が歌い始めると観客がゲラゲラ笑うんだ。面白いから。話が逸れるけど、あれは夢のように素晴らしい経験だったな。彼らは歌詞の最初の2行を歌う。それはこうさ、「認めなくちゃ/私は全くダメなやつ」。そうすると観客はみんな声を上げて笑うんだよ。僕はすごく気分がよくて、コメディを作ったんだなって感じた。結末はとても感動的だって思ったし、観客も共感してくれたって言うのがわかったよ。いろんな人たちに会って反応を聞いたんだ。ゲイの人たちの間ではすごく受けた。でも他は、ねえ。何度も見にきてくれたっていう人にもたくさん会っているよ。先日舞台がはねた後、帰る途中、劇場の近くである人に会ったんだけど、その男性が僕のところに来て9回見たって言ってくれた。先週劇場で、プロデューサーが僕をある女性とその娘さんに紹介してくれたんだけど、その人たちは21回も足を運んだそうなんだ。そしてその晩が21回目だったんだよ。
結局のところ、あの作品は5ヶ月にわたって上演された。もしあれが5ヶ月上演予定のストレートな劇だったら、もし「デンジャラス・コーナー」が5ヶ月上演し続けたら、誰もが大成功を収めたと考えるだろうね。それは人々が大作ミュージカルと考えるものの様式のせいなんだよ。
クリス:いわゆる劇場の有力者たちからの抵抗は凄まじいものだったよ。あれはほんと、ショッキングだったよね。
ニール:うんうん。
クリス:わかるだろ、本当にもうあきれるほどだったよ、それにお年を召したたくさんの批評家たちとかもね。それにまた、ジャーメイン・グリアーとか他のアホ連中みたいなマヌケどももいる。実際そういうのは本当に不愉快だったけど、でも何か変わったことをやろうとするときはそういう反応はつき物なのさ。本当に呆れちゃうよ。
ニール:ジレンマに陥ってしまうんだよね。だって究極的には、ミュージカルを製作するなんて変わっているって、音楽業界の人たちは思っているし。なぜなら今、人々は、たいていの人は、劇場になんか足を運ばないものだし、そういう人たちにミュージカルの曲を書いているとかミュージカルを製作しているんだなんて言うと、目を丸くしてびく利するんだよ。でも僕が劇場って言うのはすばらしいメディアだと思うんだよね。正直言って僕は、映画を見に行くより劇場に足を運ぶよ。それに、えーと、でも劇場で音楽がどんな効果をもたらすとか、他の人や役者が自分の書いた曲を歌うのを利くとか、観客がどんな反応をするとか、そういうことも含めて。
クリス:誰かが歌い始めると、妙な気持がするんだよね。率直に言うと、ちょっとヘンな感じがするんだ、そう思わないかい?うん、考えるモードに入るまでは、ちょっと時間がかかるね。
ニール:そうだね、その劇というメディアにある意味自分を同化させなきゃならないし。
クリス:だね。
ニール:でもさ、僕らはまた別のミュージカル作品を書く積でいるし、「クローサー・トゥ・ヘヴン」については、いまニューヨークのプロダクションと話し合っているところなんだ。そういう場面になると、劇場用の音楽を書くときには、はっきりとした考えを持ってなきゃダメだなって事に気がつかされる。すでに書いてある曲を単にそこに押し込めればいい訳じゃない、なぜなら、それでは全体の意味が通らなくなるからさ。「マンマ・ミア」ではそれはできるよ、なぜならそれがみなが見に行く理由だからさ。ストーリーは特にない。人々はただアバのコンサートを聴くために見に行くんだ。でもちゃんとしたミュージカルでは、その筋に完璧フィットする曲を書かなくてはならないんだ。台詞から歌に変わる部分に観客が注目し内容にね。観客が立ち止まって考えなくてもいいように、自然な流れで台詞と歌をつないでいくべきなんだ。それでこそミュージカルはちゃんと機能しているといえるし、「クローサー・トゥ・ヘヴン」が絶好調のときは、そんな風に上手くいったんだよ。
(以上、2002年EMIブックレットより)
|
用語&人名メモ
「リリース」というタイトル・・・以前、ジョニー・マーが提案したという説を聞いたことがあるが、ここではティルマンス名付け親説になっている(こっちの方が有力)。
「ホーム・アンド・ドライ」のビデオ・・・結局、ティルマンスのバージョン以外は制作されなかった。
「クローサー・トゥ・ヘヴン」(マーガレット通信vol37に詳細)・・・TV脚本家ジョナサン・ハーヴェイとPSBの共同で創作されたミュージカル。2001年5月31日から約5ヶ月、ロンドンのウエストエンドの劇場、アーツ・シアターにて上演された(2006年シドニーで再演)。同名タイトル曲は1999年アルバム「Nightlife」に収録。クリスが言うように批評家からは酷評されたが、これは“健全でおしゃれなファンタジー”であるウェストエンド・ミュージカルに、“リアルなゲイのセックス”で殴り込んだからだと思われる。でも、批評家を含め、ミュージカルな好きな男性はたいがいオネエ気質であるんだが、“ゲイ”と“オネエ”の謎深い溝がここに垣間見える。
「デンジャラス・コーナー」・・・JB.プリーストリー作の、1930年代に発表されたミュージカル。ロンドンのガリック劇場で2001年11月から上演されていたが、2002年4月までの予定が3ヶ月で打ち切りとなった。
ジャーメイン・グリアー・・・70年代に有名になった、フェミニスト運動の旗手。「クローサー・トゥ・ヘヴン」の初日を見て、「過去何年かの間に見た舞台の中で最低の作品。音楽も歌詞にも結末にも失望した」と酷評した。
「RELEASE」は、2002年3月20日に日本で発売された。発売各国でジャケットが違い、ボーナスCD付の2枚組みバージョンもあり(もともとクラブ・ユース率の高いPSBはアナログ・バージョンもいくつか出る・・・つまりはコレクター泣かせ)。
このひとつ前のアルバム、夜通し遊んで快楽を謳歌する「Nightlife」(「ニューヨーク・シティ・ボーイ」が収録されている)とはテーマが正反対、“家に帰る”アルバムだった。両極端でありながら、どちらも素晴らしい。PSBが得意とするきらびやかなゴージャスな世界から、愛を見つけて家に落ち着いた、という感じ。彼らが年齢を経たからか。人によっては、それが寂しい、つまらないと感じるかもしれない。確かに、突然の方向転換に戸惑ったファンも多いようだ。でも、どこを切ってもPSBらしいと思う。今のところ唯一の“ロックスタイル”(ライブもバンド編成で行った)アルバムで、私はかなり好きだ。
マーガレットの勝手に評価(5段評価)
アゲアゲ度★
皮肉度★★
政治・社会度★★★
乙女/ゲイ度★★★★
マーガレットのお気に入り度★★★★
Dr.マーガレットの処方箋
用法:寒く厳しい外の世界から家に帰ってホッとしたい時に
効能:泣けるほどの優しさを与えてくれます
服用に適した時期:冬の午後
使用量:何度でも
副作用:誰かが恋しくなる、同棲・結婚がしたくなる
|
*
各曲の詳細&レビューは、タイトルをクリックしてください
Disc1
Disc2(仮想)
*以下は2002-2003に発表された曲。
アルバム未収録でリリースされたシングル、B面(カップリング、ボーナス・トラック)、Remixなど。
詳細データリンク(オリジナル)
BACK