BILINGUAL
1996.Sep.2
/1997. June.30/ 2001.June.4
「BILINGUAL」はPSBの6枚目のスタジオ・アルバムで、1996年9月にリリースされた。PSBは少なくとも2年前1994年の8月から取り掛かっている。彼らはニューヨークに行き、1983年の「West end girls」のオリジナル・ヴァージョンをレコーディングしたユニーク・スタジオで何曲か作った。全部ではないがラテンの影響が大きく、「BILINGUAL」の最初にレコーディングした「Discoteca」にもすでに現われている。クリスは休暇をブラジルで過ごし、ニールは多くのスパニッシュ・ミュージックを聞き込んでいた。「僕はスペイン人と交友があってね。」とニールは言う。「彼が僕の家にぶらっと来たり、僕が彼の家に行ってスペインのCDを聞いたりした。」ニューヨークでは、ニールとクリスはサウンド・ファクトリー・バーに行った。「体に旗を巻いただけのほとんど裸のゴーゴーボーイズがお立ち台にいて、ラテン・パーカッションがかかっていた。」クリスが思い出した。サウンド・ファクトリー・バーの訪問は、その年の終わりのメキシコ、コロンビア、チリ、アルゼンチン、ブラジルのDiscoVeryツアーの終盤にインスパイアされた。そこで彼らはさらなるラテン・ダンス・ミュージックを取り入れた(DiscoVery・・・ツアーと後のヴィデオは、「Disco」と「Very」の言葉を合わせて名づけられた。Daft Punkが同様に名付ける6年前である)。
彼らはひとつの範囲のアルバムを作る代わりに、それが彼らに合ったので、部分的にこのレコードを作るように決めた。彼らはSarm Westと彼らが借りていたStrongroomの小さなデモ・スタジオでレコーディングを休み休みやり、1995年4月まで製作を再開しなかった。Strongroomで彼らは新しい曲のデモをたくさん作った。「BILINGUAL」の出来上がりに加えて、これは彼らが最初にレコーディングした「Hit and miss」(「Before」のB面)、「You only tell
me you love me when you’re drunk」(1999年のアルバム「Nightlife」)「For all of us」(最終的に2001年のミュージカル「Closer to heaven」に使用)、「Love and enemy」(未完成)だった。6月に彼らはDanny Tenagliaとニューヨークに戻り、8月にHenly近くの英国のカントリーサイドのRocky Laneという大きな家を借り、自分たちのペースで、もっとリラックスした環境の中で取り組むことができるように彼らのスタジオをガレージに移した。
早い段階で、彼らはプロデューサーのChris
Porterとレコーディングを開始した。彼はジョージ・マイケルとの仕事でよく知られた人物で、彼がテイク・ザットの「Back for good」をプロデュースしたことで、彼らは仕事を切望していた。
「僕はハーモニーを得た。」とニールが言う。「「Se a vida e」は多くのハーモニーがある。Bob Krausaarはそれを好んでやった。僕が退屈ですごく早くやったから、一種の励ましだね。僕らの最初の2つのアルバムはほとんどハーモニーというものに欠けている。それは当時僕にはまったく思い浮かばなかった。」
彼らは、それが半分はラテンっぽくて面白いと思っていたので、当初からそのアルバムを「BILINGUAL」と呼ぶことに決めていた。「ジョークで“BISEXUAL“って案もあった。」とニールは言う。1996年の夏、まさにアルバムのリリース間近、彼らはタイトルを決定し、初期のCDは副題を「Pet Shop Boys:人生ってこんなもの」とした。それから彼らは再考し、心を変えた。
オリジナルの「BILINGUAL」のジャケットは・・・「frosted concept(霜のコンセプト)」とクリスは言うが、それはデザイナーのMark
Farrowのオフィスにあった霜付きPVCの一部からインスパイアされた。「「VERY」の後、僕たちは普通のCDのジャケットにはできなかった。僕らは望んでいなかったけど」とニールは言う。彼らはCDケースをサンドブラストして不透明にしたかったが、不可能だった。妥協案ですら、CDケースにフロスト加工の正方形を集中させるには生産に問題と障害があった。
「EMIは、冷たすぎる、上流階級層すぎると感じた。」とニールは思い出す。
「僕はすごくジャケットの黄色は好きだけど。」とクリスは付け足した。「前の時代のSt. Martin’s Lane hotelだ。」
彼らは「VERY」後のファンタジーなイメージを詳述することに決めた。彼らは今回この時写真のためにポーズさえ取らなかった。オリジナルの「BILINGUAL」のブックレットの写真はすべてスナップ写真だった。ニールの写真はジャマイカとグラン・カナリアの休日のもので、クリスの写真はDiscoVeryツアーのものだった(クリスと背後の兵士たちの写真は、ボゴタとコロンビアのスタジアムで撮られた。PSBは後日ここで演奏をした。腕を伸ばして口を開けたクリスの写真は、アルゼンチンのブエノス・アイレス郊外のナイトクラブで、お立ち台に上がって踊っているところを撮ったもの)。
PSBの以前のスタンダードでは、「BILINGUAL」はリリースにおいてまあまあの商業的な成功だった。「僕は時々このアルバムが曖昧のままじゃないかと思う。」とニールは言う。「もしこれを偏見なしに聞いたら、これはすごく、すごく力強いアルバムだと思う。全体として、僕たちの今まででの最良の歌やプロデュースうちのいくつかが入っていると思う。このアルバムがリリースされた時、べた褒めの批評を満場一致で全面的に受け取り、2曲のトップ10シングルの後にリリースされたことをみんな忘れてしまう。マネージャーJill Callingtonが言ったことを思い出す。UKでトップ5シングルに入らなかった初めてのアルバムをリリースした、と。」
考慮すると、彼らはいくつかの保留をした。「いつも通り、僕たちは恐らく間違ったシングル選びをしたんだ。」クリスが言う。彼らは2人とも、アルバムが長すぎると意見が一致する。1ポイントでニールは「Metamorphosis」と「Electricity」をリイシューのために再度それを順番に並べる再編集を示唆する。「僕はランニング・オーダーが悪いと思う。トラック5までのメロディが弱いと思う。「Discoteca」はとても面白いメロディだけど、キャッチーなポップ・メロディーじゃないよね。「Single」は歌、「Metamorphosis」はラップ、キャッチーなコーラスがある。「Electricity」もある種ラップだ。それは確かに実験的スタートだ。」彼らはもとより売れるランニング・オーダーを考慮したと言う。リリース前に「Se a vida e」を発売、それから「Before」をリリースした。。
ニールは言う。「僕はさらに批判がある。コンセプトが明らかではなかったと思う。僕らはラテンのコンセプトに固執しなかった。それから、これを「BILINGUAL」と呼ぶのは事実だけど、人々がグロリア・エステファンのようなスペイン語の二ヶ国語アルバムだと思ったんじゃないかな。」
PSBは「BILINGUAL」の別の受け取られ方の様相に困惑した。つまり、ラテンリズムやフレーズによって示された、これはハッピーなレコードだという概念。それは違う。もっとも日当たりのいい「Se a vida e」ですら、失望した人についての歌だ。
クリスは言う。「みんな悪い。」「アルバムにテーマがあったなら、良くなっていただろう。生きていくのは辛い、というテーマが。」ニールは言う。
(以上、2001年ブックレットより・インタビューby
CHRIS HEATH)
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用語&人名メモ
サウンド・ファクトリー・バー・・・ニューヨーク・マンハッタンのナイトクラブ。住所は 12 W 21st Street in the Chelsea
district
Danny
Tenaglia(1961-)ダニー・テナグリア・・・プロデューサー、リミキサー。
St. Martin’s Lane hotel・・・レスター・スクエアにある高級デザイン・ホテル。住所は45 St. Martin's Lane London, England
「BILINGUAL」というタイトルどおり、テーマは“2つの異なったもの”で、主として英国と異国、光と影。2人によればBI=BISEXUALのことで、本当はタイトルもそうするはずだったらしい。たしかに男と女も“2つの異なったもの”だ。
前作「VERY」の痛々しいというか力の入りまくったアルバムから一転して、とても気の抜けたリゾートちっくな雰囲気が、評価の分かれるところである。新しいものを発見した子供のように、ベタにラテン音楽を使いまくっている。しかし、これこそPSBが音楽オタクである片鱗だ。正直、9枚のアルバムの中でこれをベストアルバム、最高傑作というファンや批評家は少ないかもしれない。上の2人のインタビューでも、アルバムのセールスが振るわなかったことについて反省とも取れるコメントをしている。でも、いい意味で力の抜けた雰囲気は、ニール&クリスの“再生・再起”も思い起こさせる。
「VERY」の世界的ヒットのあとで絶好調な、2人のキャリア的どん底なんて考えられないが、少なくとも精神的には苦しかったと思う。単純な評者は「VERY」を(「Go west」のせいか)“ノリのいいアゲアゲ・アルバム”と簡単に位置づけるけど、ワタシには重苦しくて、「VERY」は2人が血を流しながら作り上げたように感じてしまう。「BILINGUAL」はそこからようやく解放されたように思える。
そして解放されている筆頭なのはセクシャリティ。クリスはともかく、ニールはこのアルバムの前年にカミングアウトしているので、ずいぶんとやりやすくなったに違いない。匿名めいたものから解放されている。正直、このアルバムの曲は全部、はっきりとゲイのセクシャリティか、ゲイ(クラブ)カルチャーについてである。
マーガレットの勝手に評価(5段評価)
アゲアゲ度★★★
皮肉度★
政治・社会度★
乙女/ゲイ度★★★★★
マーガレットのお気に入り度★★★
Dr.マーガレットの処方箋
用法:ヴァカンスに行きたいが忙しくて行けない時
効能:気分をリラックスさせます
服用に適した時期:夏に最適、また逆に真冬でも可
使用量:一日中でも問題ありません
副作用:実際に南国に行きたくなりますが、諦めて下さい
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Disc1
Disc2
*以下はFurther
Listening 1995-1997収録分。
アルバム未収録でリリースされたシングル、B面(カップリング、ボーナス・トラック)、Remixで構成。
詳細データリンク(オリジナル)
詳細データリンク(2001年リマスター2CD)
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